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2020/05/30

シェリー:ヘラスとアドネイスより

Portrait_of_percy_bysshe_shelley_by_curr ← 1819年のシェリー (画像は、「パーシー・ビッシュ・シェリー - Wikipedia」より)

ラフカディオ・ハーン著作集第十二巻 英文学史Ⅱ」を読んでいて、実に瑞々しい詩を発見した。シェリー(かのメアリー・シェリー夫人の主人)の詩である。19世紀の初めにしてこのような感性の持ち主がいて、なおかつ吾輩のような詩の門外漢にさえも生き生きと訴えかける詩の作りてがいたこと驚いた。
 ラフカディオ・ハーンによると……:

(前略)ワーズワスはイギリスの詩に汎神論にも似た夢見るような宗教感情を導入した。しかしそれは本当の意味での汎神論ではない。(中略)ワーズワスは基本的には常に正統的であった。本当の汎神論がイギリスの詩で始まるのはシェリーPercy Bysshe Shelley (1792-1822)からである、として以下の二つの断片を示して説明している:

 


ヘラス Hellas

Worlds on worlds are rolling ever   世界は世界の上に絶え間なくうねる
From creation to decay,         創造から崩壊まで
Like the bubbles on a river       川の泡のように
Sparkling, bursting, borne away.    きらめき、ほとばしり、運び去られる
But they are still immortal       しかし彼らだけは生きつづける
Who, through birth’s orient portal    彼らは誕生の東の入り口と
And death’s dark chasm hurrying to and fro,  死の暗い淵をあちらこちらに急ぎながら
Clothe their unceasing flight       やむことのない飛翔を
In the brief dust and light        戦車のまわりに集まる
Gathered around their chariots as they go;    束の間の塵と光で覆っている

    (「Hellas The Anarchist Library」より)

 

 この重要な詩は、今まで書かれたどのような英詩とも違っている。まず第一に、われわれは形や名前を持ったもののはかなさを告げられる。恐ろしい時の流れでは太陽や世界さえ泡にすぎない。それは昇ってまた沈む。一瞬明るく輝いてすぐ永劫に消えるだけだ。それは彼らがただの「形」にすぎないからにほかならない。しかし人間の精神はただの「形」ではない。それは永遠のものだ。今までもあったし、またこれからも存在し続けるにちがいないものである。一人一人が旅人のように、はてしない道を歩いていく、光と闇を通って。光は生であり、闇は死である。それぞれの生もそれぞれの死も、この存在という戦車がすばやくそこを駆け抜ける入り口にすぎない。そしてもちろんこの戦車という言葉に、詩人ははかない肉体、それに属するすべてのもの、人間一人一人、の意味をこめている。それはまったくはかない。けれども永遠の原理は、生から死へと、その旅をやめることはない。


アドネイス Adonais

That Light whose smile kindles the Universe,    そのほほえみが宇宙を照らすあの光
That Beauty in which all things work and move,  すべてのものがその中ではたらき動くあの美
That Benediction which the eclipsing Curse    誕生という月食の呪いも
Of birth can quench not, that sustaining Love   覆いかくせないあの祝福あの支えの愛
Which through the web of being blindly wove   その愛は人とけものと大地と空気と海によって
By man and beast and earth and air and sea,    やたらに織られる蜘蛛の糸から明るく燃え
Burns bright or dim, as each are mirrors of    ぼんやり衰える めいめいが鏡として誰もが
The fire for which all thirst; now beams on me,   望むその火を映すとおりに そして
Consuming the last clouds of cold mortality.    その愛がいま私にほほえみ 現し世の身の最後の雲を焼く

(「adonais An Elegy on the Death of John Keats Representative Poetry Online」より)

 

(前略)宇宙は一つだとは信じたが、その一つは愛の精神だったのである。(中略)宇宙は愛の精神のほほえみによって作られる。あらゆるものが、美の精神の意志通りに形作られる。そしてわれわれ自身の中の、あらゆる善で真なるものは、この永遠の原理に属する。(中略)次々にあらわれる宇宙は、われわれが本来出てきたところの限りなく善なるものの記憶や知識を覆い隠すか、あるいは翳ませてしまうかする。それでもやはり、それは少しは感じることができる。すべての人間は、この永劫の生命の永劫の火をうつす鏡にすぎない。(以下、略)

 

(以上は、原詩以外は、「ラフカディオ・ハーン著作集第十二巻 英文学史Ⅱ」(野中涼/野中恵子訳 恒文社 p.50-2 より抜粋)

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