ジェネシス 10 胡蝶の夢
この私とは塵や埃と同然の存在。それは卑下すべきことなのか。 そうではないのだ。むしろ、この地上の一切、それどころか宇宙にあるところの全て、あるいは想像の雲の上を漂う想念の丸ごとが、神の恵みなのであり、無であると同時に全であることを意味しているに違いない。
私は風に吹き消された蝋燭の焔。生きる重圧に押し潰された心のゆがみ。この世に芽吹くことの叶わなかった命。ひずんでしまった心。蹂躙されて土に顔を埋めて血の涙を流す命の欠片。そう、そうした一切さえもが神の眼差しの向こうに鮮烈に蠢いている。
蛆や虱の犇く肥溜めの中に漂う悲しみと醜さ。その悲しみも醜ささえも、分け隔ての無い神には美しいのだろう。
私は融け去っていく須臾の夢。内側から崩壊していく。崩れ去って原形を忘れ、この宇宙の肺に浸潤していく。私は偏在するのだ。遠い時の彼方の孔子やキリストの吸い、吐いた息の分子を、今、生きて空気を吸うごとに必ず幾許かを吸い込むように、私はどこにも存在するようになる。私の孤独は、宇宙に満遍なく分かち与えられる。宇宙の素粒子の一つ一つに悲しみの傷が刻まれる。
(本文は、「夢を憶する」(03/02/09)より。画像は、「チョウ - Wikipedia」より)
| 固定リンク
「小説(オレもの)」カテゴリの記事
- 昼行燈107「強迫観念」(2024.07.30)
- 昼行燈106「仕返し」(2024.07.29)
- 昼行燈98「「ラヴェンダー・ミスト」断片」(2024.07.14)
- 昼行燈96「夜は白みゆくのみ」(2024.07.09)
- 昼行燈94「ヴィスキオ」(2024.07.02)
「夢談義・夢の話など」カテゴリの記事
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 白百合の謎(2024.08.16)
- 昼行燈107「強迫観念」(2024.07.30)
- 昼行燈101「単細胞の海」(2024.07.19)
- ドラマの見過ぎ?(2024.06.23)
「創作(断片)」カテゴリの記事
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈115「ピエロなんだもの」(2024.08.26)
- 昼行燈113「里帰り」(2024.08.13)
- 昼行燈112「サナギ」(2024.08.12)
「ナンセンス」カテゴリの記事
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 昼行燈117「夏の終わりの雨」(2024.09.04)
- 昼行燈116「遠足」(2024.08.27)
- 昼行燈115「ピエロなんだもの」(2024.08.26)
- 昼行燈114「二つの影」(2024.08.20)
「ジェネシス」カテゴリの記事
- 昼行燈118「夢魔との戯れ」(2024.09.05)
- 昼行燈115「ピエロなんだもの」(2024.08.26)
- 昼行燈112「サナギ」(2024.08.12)
- 昼行燈111「長崎幻想」(2024.08.09)
- 昼行燈110「長崎の黒い雨」(2024.08.07)
コメント