ジェネシス 10 胡蝶の夢
この私とは塵や埃と同然の存在。それは卑下すべきことなのか。 そうではないのだ。むしろ、この地上の一切、それどころか宇宙にあるところの全て、あるいは想像の雲の上を漂う想念の丸ごとが、神の恵みなのであり、無であると同時に全であることを意味しているに違いない。
私は風に吹き消された蝋燭の焔。生きる重圧に押し潰された心のゆがみ。この世に芽吹くことの叶わなかった命。ひずんでしまった心。蹂躙されて土に顔を埋めて血の涙を流す命の欠片。そう、そうした一切さえもが神の眼差しの向こうに鮮烈に蠢いている。
蛆や虱の犇く肥溜めの中に漂う悲しみと醜さ。その悲しみも醜ささえも、分け隔ての無い神には美しいのだろう。
私は融け去っていく須臾の夢。内側から崩壊していく。崩れ去って原形を忘れ、この宇宙の肺に浸潤していく。私は偏在するのだ。遠い時の彼方の孔子やキリストの吸い、吐いた息の分子を、今、生きて空気を吸うごとに必ず幾許かを吸い込むように、私はどこにも存在するようになる。私の孤独は、宇宙に満遍なく分かち与えられる。宇宙の素粒子の一つ一つに悲しみの傷が刻まれる。
(本文は、「夢を憶する」(03/02/09)より。画像は、「チョウ - Wikipedia」より)
| 固定リンク
「小説(オレもの)」カテゴリの記事
- あの日から始まっていた (9 火車の頃)(2021.09.09)
- あの日から始まっていた (6 タール)(2021.09.01)
- あの日から始まっていた (5 赤い闇)(2021.08.26)
- ボクの世界は真っ赤な闇(2020.10.16)
- マスクをするということ(2020.05.11)
「夢談義・夢の話など」カテゴリの記事
- 虎が犬たちを(2023.09.20)
- 昼行燈2(2023.09.15)
- あてどなく(2023.08.13)
- 激突! ダブルストレーラー(2023.07.26)
- バス? 電話ボックス?(2023.04.04)
「ナンセンス」カテゴリの記事
「ジェネシス」カテゴリの記事
- 海月為す(2022.12.22)
- あの日から始まっていた (35 葬送のこと)(2022.01.21)
- あの日から始まっていた (34 海辺の戯れ)(2022.01.21)
- あの日から始まっていた (31 凍てつく宇宙に鳴る音楽)(2022.01.18)
- あの日から始まっていた (16 麻酔は未だ効いてない)(2021.10.06)
コメント