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2019/01/20

ジェネシス 3 お袋の涙

2018_1273ジェネシス 3 お袋の涙

 気づくのがあまりに遅い。遅かった。
 お袋は何度も、涙を流しながら、ゴメンね、糖尿病体質を移しちゃってと、詫びるのだった。
 自分は何も反応しなかった。別に許せないから、ではない。
 そんな、涙ぐんでまで詫びることはない、あまりに大袈裟だよって思うだけだった。
 折に触れ、他に誰もいない、二人きりの時、お袋は嗚咽しながらも詫びる。
 糖尿病体質だったからって、自覚的な生活や食事、運動などを心掛ければ、なんとかなるかもしれないじゃないか。
 
 涙の真意に気づいたのは、お袋が亡くなってからのこと。

 お袋が謝っていたのは、糖尿病がどうかじゃなく、俺の口唇口蓋裂のことだ。自分のせいで、俺がこんな崩れた顔で生まれてしまった。
 幾度かの入院で気づくのだけど、口唇口蓋裂で、鼻の下や唇に傷跡の残る人は見受けないではない。なかには、注意してみないと分からないほど、うまく治療されている人もいる。

 なのに俺は。俺は鼻までが歪んでいる。鼻が歪んで曲がっている。口蓋も口唇も治療が半端だから、発音も不明瞭だ。
 口蓋が塞がっていないから、何かを食べると、汁が鼻にまで溢れ、鼻の穴からこぼれてくる。
 そして、何より、鼻がひん曲がっている。
 いくら口唇口蓋裂だからって、治療の痕がこんなに惨めなのって、病院でも見たことないよ。

 お袋は、そんな俺に仕立ててしまったことを自分のせいだと、何もかも自分が悪かったと謝っていたのだ。
 なぜ、謝る。謝るってことは、俺が出来損ないだってことをお袋が認めることになるんだよ、分かってる。それだけは、云ってはいけない。むしろ、堂々としていないと。一人の人間として誇りをもって生きているんだと、世間に対して胸を張ってくれないと。

 ああ、そうなのか、お袋は、俺のことを出来損ないって思っていたんだね。悲しいよ。
 そんなことを嗚咽しながら謝ってくれていたなんて、俺はどう受け止めればいいんだ?

 (画像は、小林たかゆき作「題名不詳」 「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)

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