ジェネシス 7 先生
毎日徹夜で、疲労困憊してて、布団を抜け出すのが辛くてならなくなっていた。起きるために、全精力を使い果たしていた。自分では辛さの理由は分からなかった。分かったのは大人になってから。起きれないのは、寒さのせいだと思っていた。積雪が3メートルになった豪雪の冬だった。もともと、おっとりした性分だった。寒さで一層とろい奴になっただけのことだ……。障害のせいで、ずっと放ったらかしだった。甘ったれにそだった。何か気に食わないことがあると、泣きわめく。それが通った。腫れ物扱いだったのだ。
退院して学校へ。見かけは何も変わっちゃいない。ただ矢鱈と億劫がるガキになっていた。それなりに授業だって聞いていたのが、ほとんど身が入らなくなっていた。そりゃそうだ、起き上がった時点で既に精力を使い果たしているんだもの。自分でも訳が分からないでいた。ただボーとしているしかなかった。朝、目覚めてからの日中の時間は全て疲労回復と、失われた睡眠を取り戻す、ひたすらそれだけに費やされているだなんて、自分ですら気付いていなかった。親も姉も周りの誰一人、気づくはずもありえない。
ボクの間抜けぶりに磨きがかかった、おっとりがぼんやりに変わっただけのこと。ボクは、昼行灯になっていた。そこにいるのに、誰も気付かない。ボーとした顔の下で、体力を少しでも温存しようとしていた。懸命に水面上に浮かび上がろうとしていた。みんなと入院前みたいに遊びたかった。でも、体が言うことを聞かない。動けない。億劫。授業中はひたすら溺れていく体を持ちこたえようとしていた。口呼吸しかできない。でも、気の小さな自分は、大っぴらに口を開けて呼吸なんてできない。出来るわけがない。
授業中にそんなことしたら、どうなる? みんな静かにしているってのに、酸欠の金魚みたいに、口、パクパクさせて、ハーハーなんて、できるかって! 口でしか呼吸できないことを誰にも知られたくない! ボクは、口を薄く開けて、決して口呼吸してるなんて、窒息しそうなのを懸命に堪え、息をついでいる。授業が終わる頃には、酸欠になりそうで、顔が真っ赤になるのを感じていた。身体が震えるようだった。それで授業を聞いていろだなんて、無理難題だよね。
ボクは、お地蔵さん。周りの何もかもが絵空事。おバカなボクは、学校でも家と一緒で放ったらかし。が、3年から担任になった先生は違う。ダメなボクを叱ってくれる。サボったら叩いてもくれる。一年から二年までの女のメガネ先生とは、大違い。ボクは、3年になりこの先生になってから、びっくりした。この世にボクに関心を持ってくれる人がいることに、心底ビックリ仰天した。感激した。だから、その先生になってからは、授業だって、それなりに聞くようになったんだ。なのに、四年生の入院手術が全てを変えた。
ボクは、二年生までのような、ウスラトンカチにもどった、戻りすぎるほどに。先生はさぞかし、驚いたことだろうなー。自分だって驚いていたんだ。自分でも訳が分からないでいたんだよ。懸命だったんだ。でも、それはアヒルの水掻き。誰にも自分でも気付かない、足掻き、悪足掻き。ただ、先生には、感謝している。あれから何十年も経ったけど、この世にボクに関心を持ってくれる人が、少なくとも一人はいる。それは、それからのボクの唯一の支えになった。それだけは言える。 (1/26 夕)
[閑話休題]
以上は、スマホでのメモ書き。
言うまでもないことだけど、あくまでガキの頃の記憶をなぞろうとしている。小学3年からの担任のことが焦点になっているけど、我が親だって<ボク>に関心を持たなかったはずはない。ただ、親子共にシャイで、自分の気持ちを表に、相手に出さない。自分が鼻呼吸が全くできなくなって、どれほどしんどい思いをしていたか、恐らく分かるはずもない。自分だって分かっていなかったのだから。吾輩がその障害の深刻さに気付いたのは、ずっと大人になってから。テレビで、睡眠時無呼吸症候群のことが盛んに話題に上るようになって。
俺は、睡眠時無呼吸症候群どころじゃないぞ。そもそも鼻呼吸ができないんだから。俺にとって日中は、睡眠時間帯の疲労をなんとかして和らげようとするのに汲々とするだけの、ある意味、空白の時間帯。友達との話にしても、ゲームにしても、上の空。頭を使う余裕なんてない。もともと間抜けな自分なのが、日中は一層、ボケてしまう。精一杯、頑張っているんだけど、普通を装うのが精いっぱいだったのだ。
(1/26 夜)
[このメモを書いていて、思い出したこと、見えてきたことがあった。本稿では、冬休みとしているが、夏休みに入院したんだった。冷房のない、京大の木造の建物。美人の看護婦さん。屈辱の教授回診。で、退院して間もなく、迷子(冒険?)になり、数ヵ月して、真冬の冒険(?)をやったんだった(両方とも、ここでメモ書きした)。脈絡(経緯)が見えてきた。体調の異変を覚えたが、自分では原因が分からず、何かの難病かと、一人悶々とする日々が始まっていた。 (1/27 追記)]
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