日常の中の出来事
これは夢の中の出来事…… あるスーパーで買い物していたら、女子中学生(か女子高生)とすれ違った。すれ違いざま、彼女は、自分の鼻を弄るような仕草を一瞬した。目は背けたままに。当てつけ。オレの醜い鼻への当てつけ。なんだって、無視して通り過ぎてくれないんだ?なんだって、あてこするような真似をするんだ?
オレは、一瞬、屈辱と惨めさに頭の中が真っ暗になる。目の中がジンと熱くなる。鼻の傷口が抉られたような鮮烈な痛みがあった。
周りに誰もいなければ、泣き崩れてしまいたかった。
そんなわけにはいかない。まだ買い物の途中だもの。みんな済ませないと。いい年をした大人が衆人環視の下で泣きじゃくるなんて、嗤われるだけのこと。あんな当てこすりなんて、もう何十年も経験してきたこと。人の気持ちなど一切、頓着しない、見かけが全てだと、自分はまともだと思っている奴らは、平気で敢えて、相手の、そうオレの醜さをこれでもかと思い知らさせる。
相手を踏みつけたいという欲求には勝てないのだ。そんなことは分かり切っている。保育所時代に散々、思い知らされたことだもの。誰より分かっている。でも、未だに馴れない。なんだって当てこするんだ? どうして黙って素知らぬ顔をして行き過ぎてくれない。大概の大人はそうしてくれる。内心、オレをどう思おうと、顔は、表情は他人の顔。そう、他人じゃないか。知ったこっちゃないだろう、あんたらには!
涙を堪えつつレジを済ませる。無表情を装う。店を出た。自転車の籠に買い物を載せる。あと一歩だ。ひと漕ぎして、スーパーの敷地を出てしまえば、こっちのものだ。涙が溢れたって、風のせいにできる。埃のせいにできる。おあつらえ向きに、今は花粉症の飛び交う時期ときている。目頭が熱くて、涙が溢れそうだって、誰もおかしくは思わないさ。
無数の人々とすれ違う。すれ違うだけの人生。それにしても、何だって泣いてしまったんだろう。この期に及んで。いい年をして。こんな屈辱や悔しさなんて、慣れっこのはずだ。保育所を出るころには涙は枯れ果てたはずじゃないか。ボクには人生なんて、ないって、つくづくと思い知ったじゃないか。情なんてものは、ボクの胸の何処を探したって、見つからなくなって、そう、人には、この子は知恵遅れですって、先生にもお袋が言われていたって、いつだったかお袋に聞かされたっけ。
ボクが保育所時代に学んだこと、それは生きるには、自分の情ってものを徹底して殺すってこと。そうすれば、少しは楽な人生が送れるって。そのはず、だったんだけどなー。 ……ということで、これは夢の中の話でした。
この夢譚で、一つ大きなウソが。いうまでもなく、夢の中の話じゃなく、日常の中の出来事でした。
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