雨っ垂れ
水滴の形の美しさに息を呑む。
降る雨の雫をどこまでも追ってみる。
目の前を一瞬のうちに通り過ぎるから、水の線にしか見えない。
それでも、きっと雨の雫はこうなんだろうと想像している。
真ん丸な雨粒。潰れた団子、いや、饅頭みたいな雨の粒。
目を凝らして蛇口から漏れる水滴を見ている。
息を詰めて、ケーブルを伝っていく水の流れを追っている。
だけど、自分の目が信じられなくなって、いつぞやのように、カメラを持ち出してしまう。
水滴の落ちる瞬間に焦点を合わせて、そう、決定的な瞬間って奴を撮ろうとしたのだ。
肉眼に追いきれない雨粒のあられもない姿を撮り切り記憶に刻み、しかも雨粒の孤独で静かなダンスの像を再現してくれる。
ファインダーは老いて世界から遠ざかりゆく自分の肉眼には叶わない世界を現出してくれるはずだ。
だけど……
そのはずだったんだけど……
世界の露わなる姿、赤裸の眺め。
それは今や我が手中にある…はずなのに、なぜか淋しい。
世界に直に触れることが叶わないと分かっているから、だろうか。
*蛇口の漏水が止まらず、いらいらする中、ドビュッシー・ピアノ曲集を聴きながら、意味もなく書いてみました。(2016/03/27 作)
関連(あるかどうか分からない)拙稿:
「雨の雫に濡れたい」(2015/02012/10/03
「雨滴のバラード」(2012/10/03)
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