吹雪
覗き込むその先には何があるというのか。
瞳には何も映らない。だって、瞳は干上がった湖だもの。
霧の海が全てをかき消している。すべてを埋めてしまう。
霧の粒を吸い込めば肺腑をも傷つけてしまう。
爪はガリガリと窓ガラスを削る。ガラスの粉塵が風に霧のように漂っていく。
そう、霧はもとはと言えば、陋屋の窓ガラスだったのさ。
それでも、あいつはホワイトアウトの魔の闇から這い上がってくる。
血の最後の一滴さえも吸われてしまったというのに。髪は積年の悲しみと恨みに老婆のように、あるいは餓死した嬰児の頭髪のようにやせ細っている。
そんなお前をオレは高みの見物だ。役目を忘れたピエロのオレ。見捨てられたブランコに腰かけて、ギーコ ギーコと、お前の末期の喘ぎのような甲高い音を奏でている。
鼓膜を引き裂き、脳味噌を甚振る高周波がBGMだ。
空っぽの心を満たすのは、無音の響き以外に何があろうか。
そのうち、白き闇の彼方から、ドーン、ドーンという音が聞こえてきた。それが、どんどん、忙しくなってきて、気が付くと窓ガラスを引っ叩いたり、ガリガリ、掻き削る耳障りな音までが鳴ってくる。
思わず窓を見遣ると、蒼白なまでの顔が。血の気など全くなくなっている、瀕死の顔。
雪女 ? !
「あんた、何、たそがれてるのよ。ドア、開けてよ。吹雪いてんだから。もう、窓、割っちゃうわよ!」
「ああ、お前だったのか」
(旧題「ホワイトアウト」(2016/02/16)より、一部改稿。 文中の画像は、いずれも「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)
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