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2016/02/18

吹雪

 脱色された世界にいた。
 髪も眼も、血の色さえ真っ青に成り果てていた。

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 形の名残だけがこの世への執念のように壁にへばりついていた。

 それは、壁面に滲みだしたリンパの涙。
 神経網をなぞる白い粉どもの足掻き。

 覗き込むその先には何があるというのか。
 瞳には何も映らない。だって、瞳は干上がった湖だもの。

 霧の海が全てをかき消している。すべてを埋めてしまう。
 霧の粒を吸い込めば肺腑をも傷つけてしまう。

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 爪はガリガリと窓ガラスを削る。ガラスの粉塵が風に霧のように漂っていく。
 そう、霧はもとはと言えば、陋屋の窓ガラスだったのさ。

 それでも、あいつはホワイトアウトの魔の闇から這い上がってくる。
 血の最後の一滴さえも吸われてしまったというのに。髪は積年の悲しみと恨みに老婆のように、あるいは餓死した嬰児の頭髪のようにやせ細っている。

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 そんなお前をオレは高みの見物だ。役目を忘れたピエロのオレ。見捨てられたブランコに腰かけて、ギーコ ギーコと、お前の末期の喘ぎのような甲高い音を奏でている。

 鼓膜を引き裂き、脳味噌を甚振る高周波がBGMだ。
 空っぽの心を満たすのは、無音の響き以外に何があろうか。

 そのうち、白き闇の彼方から、ドーン、ドーンという音が聞こえてきた。それが、どんどん、忙しくなってきて、気が付くと窓ガラスを引っ叩いたり、ガリガリ、掻き削る耳障りな音までが鳴ってくる。
 思わず窓を見遣ると、蒼白なまでの顔が。血の気など全くなくなっている、瀕死の顔。
 雪女 ? !
「あんた、何、たそがれてるのよ。ドア、開けてよ。吹雪いてんだから。もう、窓、割っちゃうわよ!」
「ああ、お前だったのか」


(旧題「ホワイトアウト」(2016/02/16)より、一部改稿。 文中の画像は、いずれも「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より)

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