アルフレート・クービンの悪夢へ
赤い闇の中で奔放に踊るあの人は誰。
印画紙に影を写し取るしかすべのない、あの人は誰。
→ 小林たかゆき作「題名不詳」(作品No,2015_1639) (画像は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」より) この絵を観ているうちに、好きな画家アルフレート・クービンのある作品を思い浮かべてしまった。
放射線に刺し貫かれた時空に磔となって、それでも魂のように揺らめいている、あの人は誰。
抱きしめたくて、思わず外へ飛び出してみた。
そこにあの人がいると胸が焦れ疼いてならないのだ。ああ、ただただ苦しいじゃないか。
だからつい、焼け野原となったかつてのパラダイスへ裸足で駆けだしてしまった。
幻影? ネガフィルム? 水没した墨絵? 溶けだした雁皮紙の滲み? 箪笥の引き出しの下敷き?
昭和の年号の新聞紙。赤茶けた記憶。埃塗れのマフラーには髪さえ編み込まれているじゃないか。
フラメンコする狂女。女はやがて躍り疲れたのか、凶弾の飛び交う町をふらふらとさ迷い歩いていく。
ピエロの雄叫び。叶わぬ望み。還らざる夢。夢にさえ裏切られて。
だだっ広い空間をあてどなく彷徨する。咆哮する。
風さえ相手にしてくれない。お前はもう終わったのだと、砂の嵐が告げている。
終わった…。始まる前に終わっていたのか…。
観客のいない劇場で舞い狂う女。オレのせいですらなかったのだ。
胸の奥の生まれいずることのなかった魂を垣間見る。
← Alfred Kubin(1877-1959) オーストリアの表現主義の画家 (画像は、「アルフレート・クービン Alfred Kubin|SAD VACATION」より)
形にすらならなかった血肉が醜い形を晒している。闇から闇へ。涙腺も歪な肉のうねりに阻まれて、涙は体の方々から膿となって垂れるだけ。やがて膿は瘤となり、今にも破裂しそうだ。ああ、輾転反側も侭ならなぬ。
ああ、今はただ、アルフレート・クービンの悪夢を貪るのみ。
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