鈍麻なる闇
寝苦しい夜が続く。毎夜のようにつかみどころのない夢を見てしまう。
毎夜… むしろ、毎度というべきかもしれない。
不規則極まる生活。隔日で車中での長い生活。隔日で家で過ごす日々。
← ☪ αηιѕα作 "the family who forgot to talk" by Glenn Brady made me cry the first time I saw it l o l
家ではだから、二日分を寝ないといけない。まともな睡眠などありえない週日の車仕事なので、家では貪るように寝るのだ。
が、眠れない。貪るように眠れるものなら、こんなにいいことはない。実際には、ニ三時間も眠ると目が覚めてしまう。寝足りないのは明らか。でも、悪夢のせいか、頭の芯が重っ苦しい、なのに煮え切らない感覚がもどかしい。
仕方なくベッドを離れ、茶の間のリクライニングチェアーに体を埋める。本など手にする。
本は自分には無上の睡眠導入剤だ。若い頃はいざ知らず、今はほんの数頁も読まないうちに、活字を追うのが億劫になる。読みたいという欲求があることはあるのだが、目が、体が付いて来ない。パッと本を手放してしまう。
それどころか、手放さないうちに目が閉じてしまう。ほんのちょっと目を休め、夢想を貪る…つもりなのに、知らず夢の世界へ迷い込んでいく。
→ Verocska Kosch 作 //...Glenn Brady...// sedated.. 90 x 70cm acrylics and pastels on pasteboard.
ホント、寝つきがいい。羨ましい? だが、ほとんど終日、同じことを繰り返す。仕事の日にできるだけ睡魔が襲って来ないようにと、休みの日はこれでもかと眠る。いや、眠ろうとする。二時間ほどの眠り、あるいは数分の意識喪失、十数分の失念、夢の中の覚醒。
体が椅子に粘り付いている。体の肉やら脂やらが蕩けてしまって、椅子の合皮のカバーに浸潤していく。
誰もが背を向ける、妙に明るい部屋。いつだったかそこに居たのは間違いないのだが、何処なのか、定かには言えない。友があの人が、オレがいることを知っているくせに、眼中にないかのような会話を淡々と繰り広げる。オレが割って入る余地などない。
みんな何処へ行ったのだ。オレはここにいる。オレは何処へも行くことができない。この場にへばりつくように、へたり込むように、立ち竦むように呆然としている。救いを求めているに違いない。
でも、祈るような声は白日の彼方へ拡散していくばかり。
体の芯に喰い込んだ徒労感。慢性的な疲れ。起きていても眠っているような茫漠感。
← チャンプwxp作「ほとけ3」
本を手に、白昼夢を追い求めていく。動けない体だからこそ、自由な空を欲する。あの女との、気ままな言葉のキャッチボールを愉しむ……はずなのに、気がつけば悔恨の夢。懺悔の夜。出口なき迷路。開かない扉。光の入らない窓。蝋のような体の女が白目を剝いてオレに微笑む。オレに返す言葉などない。
オレのせいなのか。オレが悪かったのか。そうなのだろう。だが、オレに何ができた?
数分ごとに繰り返される、半端な覚醒と泥濘のような意識喪失。鈍麻なる白昼の闇が延々と続く。
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