ピエロは嗤う
ピエロは嗤う。あなたを、世間を、世界を、そして自分を。
えっ、舌をペロッと出してるって? ベロが鏡に釘付けされているのさ、なんて言って信じる? あなた。
→ お絵かきチャンピオンさん作「ハットしてGO」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)
心は殴られ潰されてしまった。涙の河は行き場を失い眼窩へと流れ込む。
サテンだったはずの衣裳は、まるで心と体を甚振るように、風と戯れる。風に舞う。
疾風に飛ばされた砂利が更紗の生地を貫通し、生身の皮膚に食い込んでくる。
紗は擦り切れ、ガーゼのように半透明となった。ああ、美しき包帯、それが我が衣なのだよ。
覗かれてしまった、一番、見られたくなかった姿を!
赤裸の心など、誰にも見せたことなどなかった。自分にさえ!
← お絵かきチャンピオンさん作「開けちゃいけない扉開けましたね」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)
わたしがこんな姿だったなんて、知らなかった。知りたくなかった。
それを、あなたが暴露してしまった。あなたの目がわたしの心を剥き出しにした。
ひん剥かれて、わたしは身も心もパサパサだ。ドウランも塗ったそばから乾いて剥がれ落ちてしまう。
疎らな髪の毛をウイッグで隠してきたけど、もう限界だってことはわたしだって分かっちゃいたんだ。
マスカラは涙と汗で垂れてしまい、睫毛すら瞳の悲しみを覆い隠すことはできない。
ああ、でも、何も楽屋裏を覗くことはなかったでしょ!
足腰が立たないの。魂の抜け殻なの。骨身が砕かれちゃったの。
世界の不幸を呪うのに疲れてしまった。
それでも、わたし、祈っているの。あなたの幸せを、わたしの幸せを。
→ お絵かきチャンピオンさん作「亡骸スケッチ」 (ホームページ:「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」)
命が体液のように零れていく。いえ、蒸発していくの。パサパサの心。
口内では、凝結した血が岩になっている。目いっぱい開いても空気は吸えない。
ドウランという鎧で身を守ってきたけど、それも、もう、限界。
マスカラは心というキャンパスに描くクレヨン。血の赤と、脳漿の白と、便の緑との三原色は揃っていたのに。
ああ、わたしは生きたい。ただ、普通に風に吹かれたいの。
その証拠に、今日も私は嗤う、世間の面前で。
(「ピエロは嗤う」(2014/10/11)より)
| 固定リンク
「心と体」カテゴリの記事
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈124「物質のすべては光」(2024.11.18)
- 雨の中をひた走る(2024.10.31)
- 昼行燈123「家の中まで真っ暗」(2024.10.16)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- シェリー:ヘラスとアドネイスより(2020.05.30)
- 形と睡眠を無くした人生(2017.08.16)
- 名句に駄洒落で絡んでみました!(2017.01.01)
- 私は歩く人(2015.01.12)
- 甘美な遊び(2014.11.06)
「詩作・作詞」カテゴリの記事
- あの日から始まっていた (34 海辺の戯れ)(2022.01.21)
- 永遠と一瞬の美しき目合ひ(2016.07.02)
- シャボン玉飛ばそ(2015.07.04)
- 氷の町(2015.02.03)
- ピエロなんだもの(2014.12.26)
「ナンセンス」カテゴリの記事
- 宇宙を彷徨い続ける(2025.01.14)
- 昼行燈125「夢の中で小旅行」(2024.11.26)
- 昼行燈122「夢…それとも蝋燭の焔」(2024.10.07)
- 断末魔(2024.10.01)
- 昼行燈121「お萩の乱」(2024.09.20)
コメント