末期の光
穴の中にいる。そうに違いない。真っ暗闇。身動きはできる。でも、灯りひとつない窖の中じゃ、動こうにも、怖くてならない。
暗闇。黒き闇。それでいて、真っ赤な闇でもある。
ホントは血の色の滲むような深紅の世界なのが、闇に沈んでいるばかりに、つい暗黒という言葉を浮かべてしまうのだ。
肉襞の一点が空いている。ぽっかりと穴が開いているのだ。
だったら、光の一筋でも漏れ入ってきていいはずなのに、プラネタリウムの天蓋に一つだけ、ポツンと星が煌めいているようで、こちらを照らす気配もない。
光はあまりに遠いのか。外は光で溢れているのか。闇に慣れたものには、眩すぎて、まともに見入ったら目が潰れてしまうのか。
天蓋孤独な白けた点は、すぐそこにある。それでいて、まるで手が届かない。光は澄明な孤独に浸っている。
ここから出たいのか。出たくないのか、それが分からない。
光は赤いのかもしれない。真っ赤過ぎて、熱が嵩じて白熱しているのかもしれない。だから、見つめたら目が一瞬にして溶けてしまうと感じてしまうのだろう。
真っ赤な闇が蠕動している。繊毛が外の世界へと靡いている。
何かを掻き出そうとしている。オレを?
時折、発作のような波の高まりを感じる。嘔吐しかかっている。オレを嫌悪しているのか。
肺胞から吐き出されたのは、浮遊塵のひとかけらか、それとも、草臥れ果てた細胞の残骸なのかもしれない。
違う? だったら何を吐き出さんとしているのだ?
光をだって? この世界に光の一粒だってありゃしないじゃないか!
そうか、もう、あるだけの光の粒子は外へと吸い出されてしまっていたのだ。
もう、末期の光が掻き集められているというわけだな。
それらが外の蒼白の海に流れ込んだなら、その時こそ、光の一点も閉ざされてしまう。縫合されてしまう。瘡蓋に覆われてしまう。穴の痕跡さえ、消え去ってしまう。
オレが居た名残りは、みすぼらしい瘡蓋なのか。その瘡蓋も風化し、埃となって舞い散ってしまう。
オレは粘膜のない、乾ききった岩の亀裂の狭間で息絶えていく。
ああ、それも違うのか。そんな穏やかな末期など夢のまた夢だとは。腸の裏返るような吐瀉物がオレを窒息に追いやる?
肉切り包丁が俎板を叩いていた、そんな懐かしい音だけがオレの慰めなのだ。
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