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2013/12/23

蒼白の闇

 雨音が聞こえている限り、ちょっと安心してられる。それが、不意に妙に静かになっていることに気付いたりする。恐る恐る外を見ると……雪! 
 立ち上がって窓外の様子を伺うと、今夜は外は静かだけど、雨が上がっただけのことだった。

07010124

 夜、外が雪だとほんの少し嬉しいのは、窓外が明るいこと。部屋の中は、灯りを抑え気味にしているせいか、雪景色が眩しく感じられる。
 時に目に痛いほどに。

 雪を恋しがっているのだろうか? まさか! むしろ降雪を怯えているくらいだ。雪に恨みはないけれど、降らないでいてほしいと切に願う。
 雪の日々を待ち焦がれていたあの頃、俺の命は赤々と燃えていたのだろうか。凍て付く天の怒りにも似た空気の澄明ささえ、心気を奮い立たせてくれた。
 真っ白な原をどこまでも歩いて行った。藁靴に、カンジキまで付けて、もう万全の足回り。頭っからお袋の蓑帽子をかぶり、下には褞袍(どてら)そして股引だもの、何を恐れることがあろう。
 ボタン雪が舞っている。ちらほらちらほらと踊っている。おどけているのかもしれない。
 高い高い空からやってきたのだもの、それに生まれたばかりなんだし、地に舞い降りる前にたっぷり自由の時を満喫しているのだろう。
 ボクは歩き疲れると、何処かの雪の山に寄りかかり、顔を天に向ける。蓑や藁から湯気が立ち上ってくる。
 口をぽっかり開ける。すると、口からも真っ白な息が。
 吐く息は、命の塊。吐いても吐いても命は尽きることはなかったものだ。
 真夏の空よりも遥かに高く蒼い空。無数の小さな真綿たちがボクの顔を優しく叩く。
 雪の小山という至上のベッドに抱かれて、ボクはいつしか、天へと誘われていく。
 だって、雪が降っているんじゃなくて、ボクの体が宙に浮かんでいくんだもの。
 吐息で顔にぶつかる雪を払おうとする。無邪気な抵抗。雪が頬で溶けていく。まつ毛に止まった雪がやがて
砕けて溶けていく。まるで涙のように頬を伝う。

Yuki

 遠い町へ、高い空へ、深い谷間へ、ボクは一人、旅していった。
 どんな見知らぬ土地へ行っても帰る場所があった。
 今はどうだ。帰る場所どころか、行く場所さえ見失っている。俺は何処までも渦を巻く蒼白の闇で窒息しそうではないか。

            (2013/12/21 作

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