慰撫の夢
焼けたトタン屋根の上で狂い踊る猫のように、音は、ぽっかり口を開けた深淵とさえも呼べない井戸の中で哭き叫んでいる。
岩石の積み重なった壁面に頭をぶつけ、腕を取られ、足は逆に折り曲げられ、顔はダンダンと擦られて、音はいよいよ剥き出しになっていく。一体、何を哭いているのか。何を想って慟哭しているのか。
皮はこれでもかと剥ぎ取られ、純白に輝く骨が岩壁に突き刺さる。
折れた骨で押し止まろうとでも? 骨はザイルでもピッケルでもアイゼンでもないはずなのに。
星たちが点々を成している。お前はその一つになろうとでも?
透明な球体を透かせば全宇宙が一つに見えてくる、そんな夢を見た罰なのではないか。上へ上へと純粋を求めて登り詰め、体は凍て付き、やがては宇宙線に刺し貫かれ、ついには粉微塵となり、極小の負の流星群となり、それでも諦めることなく飛翔を続け、いつしか真空の宇宙空間に達した。
お前は身の程知らずにも異次元の世界に紛れ込んでしまったのだ。身をどんなに震わせても音は絶対零度の孤独と向き合うしかないのだよ。
空っぽな体躯を宇宙の浮遊塵と化して際限のない旅に出ていくがいい。不毛の時も永く続けば、それはそれで一個の結晶かもしれないではないか。
豊かな夢の時を愛撫するがいい。無音の宇宙で愛玩されて慰撫の夢を貪ればいい。
そうすれば、いつの日か、震撼の中空の只中で点々の一つくらいにはなれるかもしれないのだよ。
参照:「点々は 宇宙を攪拌しないのです」
なお、本文中の画像は、「カットされた黄水晶(シトリン)」。 (画像は、「石英 - Wikipedia」より)
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