そして、やがて、あるのは
私とは、私が古ぼけた障子紙であることの自覚。私とは、裏返った袋。私とは、本音の吐き出され失われた胃の腑。私とは、存在の欠如。私とは、映る何者もない鏡。私とは、情のない悲しみ。私とは、波間に顔を出すことのないビニール袋。
我を打ちのめし、あるいは押し流し、何処へとも知れない闇の海の底の土砂の堆積に埋められていくことは重々分かっていても、それでも、精神の疾風怒濤の中に手を差し出し、あるいは剥き出しの我が身を、我が心を差し出してまで、不可思議そのものである精神の闇の中にほんの一筋の光明を見出そうとする。
それとも、百万ボルトの高圧電流が全身を射抜いて、一瞬にして肉体が炭になり灰になり、塵になる、その最後の最後の擦過傷としての精神的所産、否、もう単なる摩擦熱、摩擦の際に生じる熱が身を焼き焦がすその焔、ただそれだけを求めて、ことさらに精神の荒廃の砂漠へ乗り出していく。
そして、やがて、あるのは、のっぺらぼうのお面、球体の内側に張られた鏡、透明な闇、際限なく見通せる海、気の遠くなる無音、分け隔てのある孤立、終わりのない落下、流れ落ちるばかりの滝、プヨプヨな空間、風雨に晒された壁紙、古ぼけたガラスの傷、声にならない悲鳴。
(「古ぼけた障子紙」(2013/09/06)参照。)
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