ツイッター小説(7)
勝手口では、隣の小母さんが赤飯を作ってお裾分けです、などと。応対しているのは母だ。父が書斎で熨斗のため、達筆をふるっている。不意に、俺を覗き込む、妹の暗い眼差しが。お前は何を悲しんでいる? そもそも俺は何処にいるんだ? 声が出ない。気付いた。俺は棺の中なのだ!
月影の冴える夜。数知れない流れ星が一瞬の煌めきを競っている。祭りなのか、提灯の列が、湖岸を縁取っている。月影が湖面に揺れている。山の空気は痛いほどに澄んでいる。胸の高鳴りが耳に痛いほど響く。対岸に彼女はいる。会いたい! 今なら! 俺は飛んだ。澄明の彼方へと!
夏の真夜中、ベランダも玄関も開放して、風の通り道を作っていた。隣室の猫が俺の部屋を通って廊下へ出た。主を待ちわびているのだ。俺は部屋の片隅で息を潜めるばかり。俺の孤独を慰撫する奴の気配。やがて、女が帰ってくる。途端に猫は戻っていく。ああ、俺も女の部屋へ行きたいよ!
手紙だけがあの娘との証しだった。他にはなに一つ残っていない。なぜ、別れてしまったのか。あの日、どうして黙り込んだのか。あの娘はあんなにも切ない顔をしていたというのに。言葉一つ、あげることはできなかったのか。ああ、付き返された手紙。俺はやっぱりストーカーなのね。
背中に気配がする。まだ、追ってきている。しつこい! かれこれ二時間は経つ。何処へ行っても奴の影が俺に付き纏う。俺の逃走劇を月光だけが知っている。駆けて物陰に潜めば奴は消える。それも一瞬のこと。何処へ逃げればいい? 奴のいない世界はないのか? 俺の影のない世界は?
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