ツイッター小説(5)
冬の夜、外へ飛び出した。雪明りが眩しい。田畑の原は白銀の世界。何処までも遠くへ。雪に埋もれてダルマになった。このまま果ててもよかった。寒さなど感じない。淋しさも蒼白に消えていく。誰もいない、完璧な世界があった。ああ、来春までには誰か見つけてくれるだろうか。
彼女の手首の傷に気づいているのはボクだけだ。あの日、廊下でぶつかって倒れたとき、床に就いた腕を見てしまった。あれからボクは彼女のことが気になってならなかった。リストカット? 何に苦しんでいるのか、知りたい。ある日、訊ねた。何、云ってるの。これはあなたのせいでしょ!
黴だらけの部屋だった。手すりも何も錆びついている。カーテンは薄汚れ、壁の沁みも絵のようだ。枕元の洗面器には茶褐色の粘液が。天井にも蜘蛛の巣が目に付く。窓ガラスは罅割れ、隙間風が吹き込む。部屋の腐臭にも慣れた。何も食べないから出るものもない。私が消える日は間近だ。
純白の世界を旅する。谷間に頬を摺り寄せると、雪原が喘ぐように小さく頷く。全ては私のものだ。赤裸のお前。谷間の底を目指して私は一気に下りて行った。地獄から極楽の園へ。ほのかに命の香が漂う。ああ、悦楽の時。すると、「父ちゃん、早く、オシメ、替えてね!」と母ちゃんが。
卑弥呼様のお告げが下った。時は今、天(あめ)が下しる睦月かな。訳が分からなかった。信者たちは懸命になって、お告げの意味を探った。睦月に何か意味があるのでは、と考えるしかなかった。侃侃諤諤の議論が続いた。突然、誰かが指差した。見ると、卑弥呼様の下からオシッコが!
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