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2012/11/06

飛行機雲幻想

 夕焼けを観たくて、慌てて家を飛び出した。
 絶好のスポットで観るため、自転車を駆って。

Sscn1689

 のはずだったけど、折悪しく、雑用が重なる。
 夕焼けの茜色が段々、薄れていくのが窓辺の様子でも分かる。
 逸る気持ちと裏腹に、世事は俺を離さない。

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 夕焼けの赤に間に合わなかったけれど、夏の蒼穹よりもっと青い空が俺を待っていてくれた。
 暮れなずむ末期の時特有の、濃い深い青色。
 陽光の残滓が空で最後のダンスを披露している。
 光の世界が闇の宇宙に呑み込まれる直前の、愛おしくてならない透明な瞬間。

 夜の帳の降りる時を切り裂くように、飛行機雲が空に一閃する。
 紺碧と藍と青の空に真っ直ぐの白線が引かれる。
 宵闇の空いっぱいに渡された、純白の筋。

Sscn1692

 ありったけの洗濯物を干したくなるような長い長いピアノ線、それともぶら下がってみたくなるような、鏨(たがね)のように細く強靭な眩しい線。
 天蓋から地上世界へ突き立てられた光の槍。

 あまりに真っ直ぐ過ぎて、天に向かって地上から突き出されたようだ。
 きっと、ぶら下がっていけば、この世の外へだって飛び出せる…

 と、見る間に様子が一変し始めた。
 張りつめていたはずの細い白線が、呆気なく姿を崩し始めたのだ。
 布団の真綿、タンポポの綿毛、身に纏うジャケットのダウン、真冬の朝の吐息。
 蕩けた白は、空の青に溶け、夜の雲に姿を変えた。
 真っ白な雲だったはずが、何処か不吉な、筋だった黒雲に変貌してしまった。

Sscn1697

 いや、違う、違う。
 あれは、あれこそは、真綿なのだ。
 冷え切った体を暖める布団の綿となるのだ。
 あの夜空いっぱいの綿を集めて、絹のシーツに丸め込んで、そして俺はその中に包まれて眠るのだ。
 
 夕焼けの代わりに俺は、塒(ねぐら)にあり付けたのだ。
 さあ、もう、帰ろう。
 暖かき褥(しとね)が待っている。

                            (12/11/04 作

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