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2012/11/02

枯れ葉の道を行く

 乾いた枯れ葉はカサコソと、森の木立に何事かを囁く。
 朽ち湿った葉っぱは、森の影に怯え口ごもる。
 踏まれた葉っぱの下から虫けらが飛び出してくる。
 甘酸っぱいリンゴの匂いとベージュ色のクリームを撒き散らしながら。

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 靴底に粘り付いた粘液を葉っぱで削るように拭う。
 すると、さっきの虫けらの仲間が朽ち葉の下から這い出してきた。
 …いや、這い出たんじゃない、先ほどの虫けらの下半身が葉っぱから食み出しただけなのだ。
 求めていたものは、これか?

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 先行きを見通せない森の杣道を体を縮めながら踏み分けていく。
 頭に毛虫、首に蛭、手には蜘蛛、腰には蝉の抜け殻、膝には折れた枝の破片、靴には蚯蚓のような紐。
 足下から蛙の喘ぎさえ、漏れ聞こえる始末。
 孤独に浸る暇などない賑やかさだ。

 木漏れ日がプラスチックの森の藪の中で溺れそうだ。
 溺れて、今にも窒息しそうだ。
 口づけて、息継ぎしてやるべきか。
 …けれど、遅疑逡巡している間に、迷い込んだ日は泡のように弾け消えた。

 闇に溶けて消えた日の真似をしたくなった。
 どうやったら森の中で溺れられるのだろう。
 息を吐く、息を吸う。吸った息が肺の中でもがき苦しんでいる。
 肺胞が森の気を嫌っているのかもしれない。

 ガラス面に映るビルの影。
 苔むし罅割れたコンクリートの波。
 歩道橋を渡るものは、道に迷った蟻が数匹。
 路面を枯れ葉が滑っていく。路肩でひと時の安らぎを求め、溝に永遠の眠りを得る。

 歪んだ空間、捻じれた時間、閉じた夢、封印された嘆き。
 時空は収斂し、街並みは発散する。
 肺腑は肋骨に貫かれ、肉片は散り散りとなり、体液は蒸発し、骨はアスファルトに削られてしまう。
 蕩けた思いは異次元の重みに沈んでいく。

 骨と肉の残骸は抽象の海に漂っている。
 薔薇の棘に傷つき滲んだ血の筋が、まだ命脈があるかのように何かの形を描こうとしている。
 それは偶然の営み、けれど祈りにも似た真率な足掻き。
 浜辺に散る骸(むくろ)の影を追っていく。枯れ葉の行方を追うかのように。


                             (12/10/31 原作

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