枯れ葉の道を行く
乾いた枯れ葉はカサコソと、森の木立に何事かを囁く。
朽ち湿った葉っぱは、森の影に怯え口ごもる。
踏まれた葉っぱの下から虫けらが飛び出してくる。
甘酸っぱいリンゴの匂いとベージュ色のクリームを撒き散らしながら。
靴底に粘り付いた粘液を葉っぱで削るように拭う。
すると、さっきの虫けらの仲間が朽ち葉の下から這い出してきた。
…いや、這い出たんじゃない、先ほどの虫けらの下半身が葉っぱから食み出しただけなのだ。
求めていたものは、これか?
先行きを見通せない森の杣道を体を縮めながら踏み分けていく。
頭に毛虫、首に蛭、手には蜘蛛、腰には蝉の抜け殻、膝には折れた枝の破片、靴には蚯蚓のような紐。
足下から蛙の喘ぎさえ、漏れ聞こえる始末。
孤独に浸る暇などない賑やかさだ。
木漏れ日がプラスチックの森の藪の中で溺れそうだ。
溺れて、今にも窒息しそうだ。
口づけて、息継ぎしてやるべきか。
…けれど、遅疑逡巡している間に、迷い込んだ日は泡のように弾け消えた。
闇に溶けて消えた日の真似をしたくなった。
どうやったら森の中で溺れられるのだろう。
息を吐く、息を吸う。吸った息が肺の中でもがき苦しんでいる。
肺胞が森の気を嫌っているのかもしれない。
ガラス面に映るビルの影。
苔むし罅割れたコンクリートの波。
歩道橋を渡るものは、道に迷った蟻が数匹。
路面を枯れ葉が滑っていく。路肩でひと時の安らぎを求め、溝に永遠の眠りを得る。
歪んだ空間、捻じれた時間、閉じた夢、封印された嘆き。
時空は収斂し、街並みは発散する。
肺腑は肋骨に貫かれ、肉片は散り散りとなり、体液は蒸発し、骨はアスファルトに削られてしまう。
蕩けた思いは異次元の重みに沈んでいく。
骨と肉の残骸は抽象の海に漂っている。
薔薇の棘に傷つき滲んだ血の筋が、まだ命脈があるかのように何かの形を描こうとしている。
それは偶然の営み、けれど祈りにも似た真率な足掻き。
浜辺に散る骸(むくろ)の影を追っていく。枯れ葉の行方を追うかのように。
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