初秋の月影を追う
9月ともなると、季語に月にちなむものが増えてくる。たとえば、「月、名月、月見、無月、雨月」であり、ここにさらに「二日月、三日月(新月)、 夕月夜」が加わる(「立ち待ち月 居待ち月 寝待ち月」の類いは、今はさておく)。
湿度が8月までに比して低くなるから、空気の透明度が高まり、勢い、月影が清かになるということか。同時に秋の夜長も関係するのだろう。夕方かな、と思わせる時間も日々、早まる。或いは、明け方の時間も徐々に遅くなっていく。
仕事柄、ほぼ終日、外にいる。午前中の11時前から仕事が始まって、昼を迎え、午後となり(この午後が夏はやたらと長い!)、6時を回って7時頃にようやく宵闇が迫り、一晩中、外を這いずり回り、4時過ぎか5時前に明け方を迎える。
仕事が終わるのは、7時前後。すぐに帰宅して、グズグズしながら就寝の時を待ち(帰宅してもすぐには眠る気になれない。神経が昂ぶっている感じがあって、その鎮まりに一時間以上掛かってしまう)、9時前頃だろうか、ようやく寝入る体勢に入る。
昼間から夜中にかけては仕事も忙しく、交差点での信号待ちの際に、風景を愛で、ふとした光景を興じるくらいだが、丑三つ時を過ぎる頃には、運良くお客さんに乗ってもらうことがないと、あとは、何処かで来る当てのないお客さんを待ちながら、あるいは真夜中過ぎの都心を車で徘徊しながら、しらじらと明けてくるまで、夜の空の変化に感応しつつ一晩、過ごすことになる。
昨日の朝も、明け方、何処かの町へお客さんを送り届け、さて、次は何処へ車を向けようかと考えつつ迷いつつ何処かの交差点に差し掛かった。すると、そこは急な上り坂の途中だったこともあり、視線が否応なく、空に向かった。
目線の先には、薄く切り過ぎたメロンのような月。そして星。茜というか、ピンク色というのか、まだ完全には明け染めていない空の美しさにびっくりしてしまった。秋!を感じた瞬間だった。夏の間にだって朝焼けくらいは見たはずだけど、どこかしら空気の分厚さを感じてしまって、車中には常時携帯しているデジカメで、この風景を撮っておこうという空に出会わなかった。
それが、ああ、この瞬間だよ。この瞬間を昨年の秋口から冬の終わりまで、仕事をしつつも、追い駆け回っていたんだよな、と思い起こされてしまった。
空の不思議な高さと透明感と、何処に由来するのか小生には判然としない懐かしさの感覚。
慌ててデジカメを取り出し、信号が赤の間に朝に映える空の光景を撮ってしまおうと試みたのだった。
(「夕月夜…秋の月をめぐって」より。画像は、「月 - Wikipedia」より)
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