« 賢い少年 | トップページ | 初秋の月影を追う »

2011/08/21

白夢

 白い夢を見る。
 夜毎に、白昼に。

 とぐろを巻く夢。
 原初の叫び。叫喚。阿鼻。

 悪夢?
 違う!
 空白。からっぽ。何もない。何も感じない。
 麻痺している?
 裂けてしまっている。
 食い違って、もう、つじつまが合わない。

 きっと遠い昔、懸命に取り繕うとしたのだろう。
 その悪足掻きの痕が、傷となって今に祟っている。

 真っ白な…、目映過ぎる空間。
 黒い台の上のそれ。
 まっさらな布切れを被されて、でも、体も顔も心も剥き出しにされて、晒し者になっている。
 手が突っ込まれる。我も我もと、みんなが興味津々となっている。
 好奇心の触手が喉元まで押し込まれている。
 あっちの肉を引き伸ばし、こっちの腱を引っ張り出し、骨を削り、こうなったらいいなという形に、みんなでトントンカチカチやっている。

 純白すぎる布切れだというのに、それでも足りないとばかりに、天井の明りが煌々と照っている。
 光の刃が幼い体を突き刺す。
 白熱する無数のメスが、囃し立てる光たちに後押しされて、奴を串刺しにし、数知れぬ鉗子が無理やりに無垢の魂を銀の皿に抉り出す。

 劫初の闇が深紅に染まる。

 真っ赤な闇。血塗られた闇。滴る血に涙は混じり合い、喚く声をも溺れさす。乾いた血反吐が壁に滴っている。

 それでいて、まっさらな闇。
 手応えなどあるはずもなく。

 みんなして、そんなに晒し者にしなくていいじゃないか! という声はメスの喧騒に掻き消される。
 いや、声になる前に肉の震えとなって、骨身に伝わり、遠い時の歪みに溶け込んでしまう。

 隠しようもない不始末。
 慌しい現場。
 走り回る人々。
 やがて、そこに一個の肉と骨の塊が残される。
 縫合して表面を取り繕ったはずなのに、心と肉の傷口が痛々しい。
 まるで失敗の痕跡を世間に晒すかのようではないか。

 歩いていけという。
 光の中を歩いていけと。
 歪んだ肉の身で光の中を…。
 何処へ向かって歩けばいい。

 光の粒子たちが笑っている。寄り集まって、それを嗤っている。
 足場など何処にある。
 蒼穹の空には、底がないじゃないか。
 底抜けの闇の中に落ち込んでいく。悪夢のような、掴みどころのない、蒼白なる夢の中。
 目覚めることのない白い夢。

 そうして目覚める。赤い闇の日常に。

                              (11/08/18 作)

|

« 賢い少年 | トップページ | 初秋の月影を追う »

心と体」カテゴリの記事

小説(オレもの)」カテゴリの記事

妄想的エッセイ」カテゴリの記事

ドキュメント」カテゴリの記事

夢談義・夢の話など」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 白夢:

« 賢い少年 | トップページ | 初秋の月影を追う »