白夢
白い夢を見る。
夜毎に、白昼に。
とぐろを巻く夢。
原初の叫び。叫喚。阿鼻。
悪夢?
違う!
空白。からっぽ。何もない。何も感じない。
麻痺している?
裂けてしまっている。
食い違って、もう、つじつまが合わない。
きっと遠い昔、懸命に取り繕うとしたのだろう。
その悪足掻きの痕が、傷となって今に祟っている。
真っ白な…、目映過ぎる空間。
黒い台の上のそれ。
まっさらな布切れを被されて、でも、体も顔も心も剥き出しにされて、晒し者になっている。
手が突っ込まれる。我も我もと、みんなが興味津々となっている。
好奇心の触手が喉元まで押し込まれている。
あっちの肉を引き伸ばし、こっちの腱を引っ張り出し、骨を削り、こうなったらいいなという形に、みんなでトントンカチカチやっている。
純白すぎる布切れだというのに、それでも足りないとばかりに、天井の明りが煌々と照っている。
光の刃が幼い体を突き刺す。
白熱する無数のメスが、囃し立てる光たちに後押しされて、奴を串刺しにし、数知れぬ鉗子が無理やりに無垢の魂を銀の皿に抉り出す。
劫初の闇が深紅に染まる。
真っ赤な闇。血塗られた闇。滴る血に涙は混じり合い、喚く声をも溺れさす。乾いた血反吐が壁に滴っている。
それでいて、まっさらな闇。
手応えなどあるはずもなく。
みんなして、そんなに晒し者にしなくていいじゃないか! という声はメスの喧騒に掻き消される。
いや、声になる前に肉の震えとなって、骨身に伝わり、遠い時の歪みに溶け込んでしまう。
隠しようもない不始末。
慌しい現場。
走り回る人々。
やがて、そこに一個の肉と骨の塊が残される。
縫合して表面を取り繕ったはずなのに、心と肉の傷口が痛々しい。
まるで失敗の痕跡を世間に晒すかのようではないか。
歩いていけという。
光の中を歩いていけと。
歪んだ肉の身で光の中を…。
何処へ向かって歩けばいい。
光の粒子たちが笑っている。寄り集まって、それを嗤っている。
足場など何処にある。
蒼穹の空には、底がないじゃないか。
底抜けの闇の中に落ち込んでいく。悪夢のような、掴みどころのない、蒼白なる夢の中。
目覚めることのない白い夢。
そうして目覚める。赤い闇の日常に。
(11/08/18 作)
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