夜の果ての天の光
月をジッと眺めあげていると、誰しも、月の面に淡い文様を見出す。煌々と照る月、未だに自ら光るとしか直感的には思えない月、その月は、その表面の文様を見分けることを許すほどには、優しい。
優しいのだけれど、秋の空の満月は、やはり、凄まじい。空にあんな巨大なものが浮かんでいるなんて、信じられなくなる。ポッカリ、浮いて、どうして落ちてこないのか、不思議でならなくなる。
でも、落ちては来ない。
夜空の天頂から次第に地平線のほうに落ちていくようだが、その落ちる先というのは、我々がどんなに死力を尽くして落ちていっただろう先へ追い駆けていっても、決して追い着けない。
虹でさえ、時に懸命に追い駆けたら、いつかは、そのブリッジの袂に行き着けるという幻想を抱かせるのに。
追いつけない彼方に落ちたものは、実は落ちたとは言わない。彼方に姿を消したのである。我々の眼差しの限界を超してしまったのである。
地の山々の彼方に、水平線の先に消え去ったのである。
月に吼えるという誰かの文言があった。
さすがに小生は吼えたりはしないものの(その衝動に駆られることはある。人影のない場末の公園とはいえ、世間体を気にする小心者の小生、心の中で密やかに、オオーンとやってみるだけである)、魂が掻き毟られるような思いを持て余すのは確かである。
夜の果ての天の光というのは、我が心を剥き出しにする。自分にさえ隠しおおしたり、誤魔化し通していたりしていても、天の光が魂の中にズカズカと侵犯して、魂の部屋の中を光で溢れさせ、影などの余地を奪い去ってしまう。丸裸に剥かれてしまう。
赤裸の自分、卵に還った自分、原初の心、そんな何物かの不即不離の境が生じる。
(「秋の月をめぐって」(04/10/02)より)
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