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2010/04/13

浮かび上がらせてやりたい

 今日は昨夜来の冷たい雨が終日、続いた。
 今、夕餉のときを終えたけれど、雨はまだまだ降り続きそう。

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 雨が庇を、木立の葉っぱを叩く音。
 時折通り過ぎる車が水を撥ねていく。
 踏み潰された水は、一瞬、グシャッとかバシャッとか音を立てる。
 悲鳴のようにも、喚きのようにも聞こえる。
 心弾む日には、子供たちの歓声にだって聞こえるけれど、今日はそうはいかないようだ。


 雨の音が夜の町を孤独の海に沈めていく。
 家々を雨音のカーテンが区分けしていく。
 窓の明かりも降り行く雨に揺らいでしまって、夜陰に紛れ溶け去っていきそうだ。
 もう、こちらには届かない。部屋の灯りだって雨のカーテンに遮られ、草臥れ果ててしまう。
 きっと、雨に煙る時空の彼方には、人の息吹が、溜息が、喘ぎが、吐息があるはず。
 決して魂の残骸なんかじゃなく、心からの手紙のような息が。
 届かない?
 受け止めきれない?


 おやっ、人?
 傘を叩く雨音…。
 人の気持ちを穿つ雨。
 家路を急ぐ人。
 通り過ぎていく、通り過ぎていくだけ。
 誰も足を止めない。
 止める理由もないし。


 熱いはずの心は、出口を見出せず、交し合う相手も見出せず、胸の中で乱反射し、あちこちの肉壁に傷をつけ、穴を空け、血潮に溶け込み、体の末端で渋滞し、鬱血し、凝固し、瘡蓋に成り果てる。
 一枚、また一枚と剥がしていく。
 その下には鮮血が流れていると期待して。
 血潮が溢れ出すと祈るような気持ちで剥ぎ取っている。
 なのに、瘡蓋の下は壊疽した心がケタケタ嗤っているだけ。


 沈んでいく心。
 雨水より重たい心。
 潜って浮かび上がらせてやりたい。

 今の願いは、ただ、それだけだ。

                             (10/04/12 作)

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