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2010/01/17

記憶の欠片

 この日、三度目の仮眠を取ろうとしていた時のことだった。

 ベッドに身を横たえ、目を閉じようとしたら、ふと、胸の痛みを伴って、何かの記憶の断片が脳裏を過(よ)ぎった。

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←  オレの足あとだけが点々と連なっている。

 あまりに像が鮮やかなので、自分が今、ホントにそこにいると思えてならなかった。
 誰かを待っている…、それとも、誰かを追っている…。
 あるいは、誰彼に逸れてしまっただけなのかもしれない。

 眠ることへの恐怖が、怯えがそんな遠い日の残像を呼び起し、睡魔への無為な抵抗を試みさせているのかもしれない。


 ただ、強烈な情念が胸を掻き毟っていた。
 会いたい!
 会いたい人が居る!
 けれど、相手の姿は見えない。

 何処かの家の裏手の軒下にポツンと立つ自分。
 当てもなく立ち尽くすだけ。
 
 今こそ遭うべき時なのに、時間だけが過ぎていく。


 もう、若さはとっくに失われているのに、情が渦を巻き、やがてその勢いの捌け口を見つけたとばかりに、オレの胸の透き間を衝いて噴出する。
 けれど、情の念は日の目を見た瞬間、熱さと冷たさの同居した、真冬の朝の吐息へと変貌する。
 あの血の吐くような痛みさえ、凍て付いてしまっている。

 無駄だと分かっているのに、今更どうなるものでもないのに、オレは表に飛び出した。

 降り頻る雪。
 何処までも広がる新雪の野。
 オレの足あとだけが点々と連なっている。

 遥か彼方に光。
 あれは灯明なのか。
 それともただの幻?
 オレへの誘い?
 闇の中のオレンジ色の光の罠なのか。
 
 オレは光へと向かっているのか。
 それとも、ああ、闇へと沈んでいこうとしているのか。


 やっぱりだ。
 光は通り過ぎ行く車のライトに過ぎなかった。
 オレに残されるのは、雪の飛沫だけ。

 分からない。
 ベッドで垣間見た鮮烈な記憶の糸は、すっかり色褪せ撓んでしまっている。
 蜘蛛の糸のように冷酷な救いの糸
 
 何もない。
 ないってことすら、ない。

 あるのは、ただ、白い闇。


 …白けた闇に迷い込んでしまうのはいつものこと。
 オレは、記憶の糸を手繰るのをやめた。

(「南天の実に血の雫かと訊ねけり」(10/01/14 作)より抜粋)

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