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2009/03/03

断片1

 この手を伸ばせば、世界が感じられる。
 ある時、そういう閃きがあった。

 光沢のある、けれど生気のないまっさらな風景。
 そこにポツンと居るボク。

 目の前に人が居る。
 何か叫んでいる。
 いや、悲鳴を上げている!

 けれど、聞こえない。
 まるで口パクしているようだ。

 からかっている?

 でも、何のために?

 ボクは行き過ぎようとした。
 ボクには関係ないこと、ボクにはどうしようもないことだもの。
 
 …けど、できない。
 黙って見過ごせるほどボクは強くない。
 あったことをなかったことにはできない。
 
 恐る恐る近付いていった。
 近付いていく間に、きっとその子は絶望的な状況を脱するに違いない。
 我に返って無様な自分の姿に気付いて、慌てて立ち去っていくに違いない…。

 とうとうその子の傍に立ってしまった。
 なのに、その子は喚き続けていた。
 周りがどうだろうと激情を爆発させていた。

 なんて羨ましい奴なんだろうと思った。
 ボクにはありえない。
 自分の胸の中に感情があって、それが止め処なく噴き出すなんて、ありえない。
 ボクの気持ちはどこにあるのだろう。
 ボクはどこにいるのだろう。
 ボクにはさっぱり分からない。
 
 そのうち、泣き喚く奴が憎たらしくなった。
 むき出しの感情を曝け出すなんて、どうしてそんなことができるのか。

 うずくまって泣き、壁を叩いては泣き、地団太を踏み、情の為すがままに身を任せている。
 その傍でボクは手を拱いて眺めているだけ。
 声を掛ける勇気もない。
 木偶の坊。突っ立っているだけ。
 それどころか、傍から見たら、ボクが奴を虐めているように見えるかもしれない。

                               (09/02/17作)

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