影遊び…断片3
影絵。影。影は、一体、人間やモノの何を表しているのだろう。何が地上や壁に移るのか。映るのか。写るのか。
影踏みのことに、以前、少し触れてみたことがあるが、影とは不思議なモノだ。モノと仮に呼称してみたけれど、存在なのか、存在の欠如なのか、存在の影に過ぎないと決め付けておくのが一番、楽なのだけど。
影のある人間も怖いが、影のない人間はもっと危うい。妖しい。人は影があることで奥行きが生まれ、表情が生まれ、翳りが生じ、情感が漂い、今だけではなく過去を引き摺っていることを思い出されてしまう。
光の裏側の影を思う。
が、その影こそが時に真実だと思い、しかも、その光の加減や角度次第のはずの影が、実は演出されることもあることを思い知らされ、やがては、世界には表面だけではないことを予感させられていく。
にこやかに、穏やかに振る舞う。けれど、あの人には影がある。人には見せない影の世界を隠している。
でも、それは人には見せない秘密であったりするけれど、重荷を自分のみで背負うという覚悟、人への思いやりの結果だったりもする。
影とは、過去であり、ほとんど、その人の生き抜いてきた人生そのものなのかもしれない。
光は眩しい。直視は不可能だったりする。だからこそ、蝋燭の焔は優しく感じられるのだろう。
われわれ…、いや、私のような気弱な人間には光ある世界など、ひたすらに遠い。せいぜい、蝋燭の焔のゆらめきを、ゆらめきの産む壁や床や人の表情の翳りを楽しんだり、危ぶんだり、悲しんだり、疑念に苦しんだりするだけなのである。
子供の頃、影踏みに、あるいは影絵の世界と戯れ興じることで、きっと、われわれは、自分が生きているこの世界が実に豊かな謎と夢とに満ちていることを、胸一杯に感じていたに違いない。
そんな影遊び。
(「影絵の世界」より)
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