蛍を見た!
[下記の小文は、7月2日に書いたモノローグを元に、説明のための加筆、さらには若干、フィクション的要素を加味した、<日記>かな。]
「蛍を見た!」
夜の八時過ぎだったろうか、ホタルを見た。
もう時期外れもいいところ。
一昨日、富山市のはずれの地域へ車で。
富山市は、3年前の平成の大合併でそれまでの旧富山市と比べ、住民の数も増えたが面積がべらぼうに増えた。
婦中町や大山町、大沢野町、八尾町に山田村さらには細入村などと、従来の観念では考えられない地域までが富山市に編入(あるいは合体)。
ほんの数年前までの感覚だと、山田村って、ホントの山間の村というイメージだった(但し、行政は斬新なものを打ち出していた)。
例えば隣の岐阜県へ行くには、ルートにもよるが、(旧)富山市を過ぎても、さらには大沢野町や細入村、大山町を抜けてようやく県境に到ったものなのだ。
今回、その山田村の入口近くへ行ったのである。
そこは市街地に暮らす人間にこびり付いている先入観からすると、ほとんど山村。
街灯もなく真っ暗なのでよく分からないが、田圃と畑と森か林があるだけ。
民家は点々とあるような。
但し、昼間だったら、人家の密集する地域も垣間見られたのだろうが、闇の中、谷の底に沈んでいるようで、何も分からない。
車のヘッドライトも、山の斜面の、あるいは谷間の深い闇を一層、際立たせるだけ。
旧富山市の平坦な平野部からはやや高度もある。
曲がりくねる道の按配で時折、下界(富山市)が遠望できると、町の灯りがキラキラして何か別世界を眺めるようでもある。
さて、仕事を終え、ホッとして車を走らせたら、道端に一つ小さな光が。
まさか、人魂?
違う、人魂にしては小さすぎる。
動きも人魂にしてはやや敏速(といっても、人魂を見たことはないのだが)。
…もしかして、ホ、ホ、ホタル?!
…間違いない、ホタルだ!
一匹だけが道を左の藪から右のほうへとスーと横切っていって、あっという間に田圃か畑の脇の藪の闇に掻き消えていった。
束の間の闇の絵巻。
一匹だけだったけど、ホタルを観た!
ホタルたちの群れから逸れたのだろうか。
それとも、冒険心の溢れる奴なのか。
あるいは恋人を求めて彷徨っているうちに道を失ったのか。
あるいは死に損ねた?
こんな時期にホタル!
まさか、死んだホタルがオレのために最後の気力を振り絞ってくれた?
東京暮らし30年、富山を離れて通算36年、富山へ舞い戻ってきた。
18歳までの富山は、体に染み込んでいる。
折々は帰省もしてきた。
でも、逸れた心が富山にすんなりとは戻れない。
やるべきことはやっている。
でも、心の中に芯が通らない。
やるべきことじゃなく、やりたいことをやっているとは到底、思えないのである。
郷里に戻ったけれど、心を分かち合う人が一人でもいるわけでもない。
どこか頑なな、窒息しがちな心を解きほぐすには誰の手を借りるわけに行かない。
自分で少しずつ、ホントに少しずつ、雨垂れに岩の溶けるように、固い岩盤を、凝り固まった何かを和らげて行くしかない。
一匹のホタル。
何処から来て何処へ行くのやら。
行く当てがあるものやら。
何のために光ってみせるのか。
問うても応えてはくれない。
答えは自分で出すしかない…ってことなのだろう。
そうなのだ。町の灯りからは遠い闇の世界にあっても、その気になれば、光はありえる。
誰を慰めるとか誰を励ますというのではない。
ただ、命の火を灯せばいいのだ。
気が付けばこの世界にある自分を見出したように、いつか気が付く暇も余裕もないままに得体の知れない世界へと掻き消えていく。
ホタルの命。
ホタルの命の火。
ホタルの命の灯。
ちっぽけな光であっても、闇が深ければ深いほど、か細いはずの光が眩しく明滅する。
懸命なんだろう。
ただ生きているだけでも、必死だったりするのだろう。
だから、闇の中の小さな光は愛おしいのだ。
やがてその光も闇に飲み込まれて何処かへと消えていく。
それでいいのだ。
それだけのことであってさえ、そこには際限のないドラマがある。
その真実をあの小さな一筋の光が教えてくれたような気がする。
理由は分からないけど、初めて富山に帰ってよかったって、思ったよ。
いつかは和解の時もありえる、そんな気にもさせてくれたのだし。
参考?:
「夜間飛行を堪能する」
「蛍は…火垂る? 星垂る?」
「「蛍は…火垂る? 星垂る?」追記」
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