蝋燭の命
一本の蝋燭の焔に照らされ浮かび上がるものとは一体、何なのだろう。
何かの雑誌を読んでいたら、こんな一文に出会った。
「闇の海には無数の孤独なる泳ぎ手が漂っている。誰もがきっと手探りでいる。誰もが絶えず消えてしまいそうになる細く短い白い帯を生じさせている。否、須臾に消えることを知っているからこそ、ジタバタさせることをやめない。やめないことでそれぞれが互いに闇夜の一灯であろうとする。無限に変幻する無数の蝋燭 の焔の中から自分に合う形と色と匂いのする焔を追い求める。あるいは望ましいと思う焔の形を演出しようとする。」
だからだろうか、ある女性のことが思われてしまった。その人は絵を描くのが好き。しかも、深い闇の中で初めて画布に向う気になれるという不思議な人である。深い闇。決して薄明の中で目を懸命に凝らして、ボンヤリと浮かぶ何かを見詰めて、そうして描いているわけではない。
→ ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(Georges de La Tour) 『悔い改めるマグダラのマリア』 (ナショナル・ギャラリー (ワシントン)) (画像は、「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール - Wikipedia」より)
彼女は真っ暗闇の中で何かを描いているのだ。
そう、彼女は盲目なのだ。何も見えないのである。灯りがあろうがなかろうが、最初から関係ないのだ。彼女の傍には誰が置いたのか、一本の蝋燭がある。その蝋燭の焔が彼女の孤独な姿を浮き彫りにしている。
一体、彼女にとって蝋燭など、まして蝋燭の焔など何の意味があるだろう。気休め? それとも、孤独な闇の底特有の寒さを、その蝋燭の焔の放つ熱でほんの少しでも凌ごうとしている?
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