みんな満点
[「運動会の競争で参加者全員一等賞」という課題を与えられての創作の続編です。]
コホン、コホン。
この前は醜態を晒して恐縮しておる。
名誉挽回というわけではないが、本日はやや荘重な内容の話になるから、そのつもりで承るように。
この前も言ったが、年寄りの話を聞くのは若者の功徳だぞ。功徳じゃなくて、くどいぞ、などと文句を言わないようにの。
さてじゃ、わしが今日、話そうと思うのは、みんなが一等賞にちなむ問題じゃ。
せっかくこの世の日の目を見そうな哀れな精子に愛の手を! と述べて、つい我が身のことに思いが及んで、締め事というか秘め事というか姫事に望んで、ちっとは発射できるか、心配だったこともあって、つい、何だか繰り言になるなんて、のお、力が入ってしまったんじゃ。
でじゃ、みんな一等賞という発想法の愚かしさは、皆も分かっておるじゃろう。今更、わしがくどくど説明するまでもないじゃろうて。
ま、しかし、そこは老婆心というか(それにしても、なんで老爺心がないんじゃろう?!)、万が一にも問題が何処にあるか分かっておらん奴もいるかもしれんし、ここにルル三錠じゃない、縷縷、説明しておく。
つまりじゃ、運動会などで徒競走などをやってじゃ、まともに競争をすると、当然ながら一等賞の者から二等賞、三等賞とあって、まあ、ここまではいいとして、そのあとには選外というか、賞状も賞品ももらえない連中が続くわけじゃ。で、最後にアゴを上げてひーひーいいながらやっとのことでごールに倒れこんでくる可哀想な奴も、必ず居るというわけじゃのう。
で、ゲットクソの奴が惨めじゃないか、負けた奴が可哀想じゃないか、勝ち負けがあるなんて、差別に繋がる。虐め問題がこれだけ社会問題となっている最中、学校が先頭を切る形でそんな虐めの元を作ってどうする、学校はじゃ、みんなが仲良く生活する場なのじゃ、というわけで、運動会があっても建前上、競争をやっても、そこはそれ、ちゃんと按配してみんなが平等な結果を得られるようにするというわけじゃのう。
わしは、この考えに大賛成だということは、この前も言った通りじゃ(じゃないと、わしのなけなしの精子が可哀想じゃないか! なんとか一匹くらいはチンタラしていても秘め事の奥所に辿り着かせて、で、とにかく口をパッカリ開けている姫君の元に…、のう、お主もわかるよのお、男子ならばの)。
ところがじゃ、世の中には分からず屋もいるわけじゃ。
頑張った奴が一等賞にならなくてどうする、だとか、みんな仲良く一等賞なんてバカなことをやっているから日本はダメになるんだとか、学校は、世間の荒波を避ける場であると同時に、社会の厳しさの一端を少しは学ばせる場であるべきだとか、まあ、分かったようなことを言う連中がいるものぞい。
なるほど、勉強はできなくても、運動はできる奴もいる、そういう奴には、せめて運動会で一等賞などを取らせて、日頃の劣等感を少しでも鬱憤晴らしさせてやらないと、などと、知れたようなことを言う奴もいるようじゃ。一つの理屈かもしれん。
が、わしに言わせれば、馬鹿な考えじゃ。成績もいい、運動会も一等賞、役員をやらせても有能という奴もいるじゃないか。
逆に言うとじゃ、何をやらせてもダメな奴も居るって事じゃよ。勉強もダメ、運動もダメ、歌もダメ、絵は下手くそ、ウチに帰っても親は仕事で相手にされないとか、の。
そこでじゃ、わしは考えた。中途半端はいけない、と。
つまりじゃ、運動会でみんなが一等賞というだけではいけないのだと、の。
ん? 分かったと、ん? みんながゲットクソ賞になって、負ける悔しさ惨めさを学ばせる?
お前はバカか。わし以上のバカじゃな。
そうではない。わしが考えたのは、みんなが満点ということじゃ。
まだ分からんのか。察しの悪い奴ぞえ。
運動会では競争をやっても、みんなが一等賞であるように、勉強でも、試験をやっても、その結果はみんなが満点ということにするのじゃ。
不思議とは思わんか。わしに言わせれば不思議と思わん、世間のほうが余程、不思議じゃぞ。
運動会では、負ける奴がいたら可哀想だから、みんな一等賞にしておいて、それでいて勉強のほうは旧態依然と○だ×だとチェックしていって、零点そして赤点から満点までばらつかせる。で、成績順で鼻高々振りを決めておる。
この片手落ちは何じゃ! 不合理ではないか。理屈に合わんじゃないか。わしなど、幾度、赤点や零点を取ったことか。それもじゃ、試験問題に真剣に取り組んだのに赤点じゃぞ。情ないったらありゃしなかったぞい。
コホン。また、遠い思い出が蘇ってしまった。何しろ出来の悪いわしじゃったが、こんなに立派に更正できるのじゃ。お前も心配することは何もないぞ。
ということで、試験をやっても結果はみんな満点じゃ。こんな夢のような話はないじゃろう。
運動のほうはみんな一等賞で試験は点数を厳しく付ける、ここに陰謀の臭いを嗅ぎ取らないと嘘じゃぞ。
このみんな一等賞なんてのは、どうせ、頭のいい奴(頭だけのいい奴)の父兄の考え出した陰謀に決まっておる!
つまりじゃ、内申書重視が叫ばれている中、学科の試験はなんとかなっても、運動の成績が悪いと何かと不都合じゃ。そこで体育も音楽も一等賞ということにして、体育系実技系の科目の成績を糊塗しようというのじゃな。体育系の得意な奴の鼻っ柱をへし折ってしまうという一石二鳥の効果を狙った巧妙な罠じゃ。
腹黒い魂胆が隠されておるのじゃ。負けた奴が可哀想だ云々というのは、ただの美名じゃ、表向きの話じゃ。全ては内申書にどう反映されるかの問題なのじゃ。
じゃからこそ、わしは主張するのじゃ。理科も算数も国語も社会も、みんな満点じゃ。答案用紙に名前さえ書けば、紙面に漫画を書こうが、先生の悪口を書こうが、用紙で飛行機を作ろうが、鼻をかもうが、精子を受け止めようが、みんな満点じゃ。
そして、みんな東大へ推薦入学じゃ。だって、そうじゃろう、みんな平均点が満点なんじゃなから、東大など文句無しで推薦で一発合格じゃ。
えっ? 定員があるから出来ない相談だと? つくづくお前は愚か者よのおー。みんな満点に決めたんじゃから、全国の大学の名前をみんな東大にすればいいことじゃろが。簡単なことじゃ。東大北海道分校、東大山形分校とか、の。
そうすればじゃ、このアイデアをもっと早く誰かが気付いておったらばじゃ、そうしたら、わしも東大卒じゃ(正確に言うと、東大付属高校付属中学付属小学校付属保育所卒だが…。細かい話は抜きじゃ。東大・卒と書いても、紙面の都合で途中を略しただけで、嘘は書いておらんのだからの)。
わしも学歴詐称もなんぞせずに済んだのじゃがなあ…(遠い目)。
どうじゃ、なんだかワクワクしてきたじゃろうが。お前も遊んで暮らしても東大卒の学歴が約束されるのじゃぞ。
そうなれば、後は人間性の問題だけになる。そうなれば、みんな、わしを見習い尊敬するようになるのは間違いない!
その日が一日も早く来たらんことを祈るのみじゃ。
ん? 昨夜の姫始めの首尾はどうだったかだと? わしの面前でそんなことを聞く奴があるか。
惨め始めに決まっておろうが!
(04/01/30作)
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