連句巻く(梅雨・海苔編 2)
夏 1 窓の外ピクとも揺れず釣り忍 狂兆
鬱陶しい日が続きますね、師匠。 狂
我が家には吊り忍を架けたけど、湿って重そう。 順兆
2 篭るばかりが能じゃない 順兆
こんな時期だからこそ、外に出てリフレッシュしないと。 順
3 梅雨空に生きてありけり子らの声 吉兆
そうじゃよ。子供らを見習わんと。 吉
でも、最近の子等は、庇のあるところでしか遊ばないのよ。順
4 足音鳴らし起こす神さん 狂
子等の声から、子供の足音。
今朝は内のカミさんの足音で目が覚めたのを思い出した。 狂
月 5 かの月は夢の中ぞと諦めよ 順
休みの日だからって、いつまでも惰眠を貪ってんじゃないのよ。
突然、師匠の家に行こうって言い出したの、あなたよ。 順
6 雨期は浮き愛き遊子憂き内 吉
まあ、まあ。梅雨の時期ってのは、楽しくもあり辛くもある。 吉
1 啓蟄は今ぞとばかり虫跳ねる 狂
昔から思ってたけど、啓蟄って、梅雨の頃に合うような。 狂
2 水撥ねて行く車の憎し 順
まあね。葉っぱもシャワーを浴びて気持ち良さそうだし。
虫さんたちもいよいよ元気になるしね。
跳ねるで水はねのこと、思い出しちゃった。 順
3 連句とて紬の着物水溜り 吉
あの時は、紬の着物だったよのー。
めったに見たことのない姿じゃった。 吉
師匠、随分、詳しいですな。 狂
何、言っとる。
この前、奥方は紬の着物を着て我が宅を訪れたじゃろ。 吉
そうでした。
神さん、連句を巻く前、愚痴を零す零す。
柄が水玉模様になったって。 狂
4 大森の夜は凍つくが見えし 狂
着てた着物が汚れて心が凍りついたと。
ちょっと無理を承知で。 狂
5 海苔巻けるにぎりの一つ喰うがよし 順
師匠の地元・大森というと、海苔!
海苔巻きを手に連句を巻くのも風流よね。 順
6 食い散らかして捨てし町角 吉
若い頃は、歩き歩き何かしら食べてたものだった。
ワシの若き日の恋…。バッタバッタと…。
懐かしいのー。 吉
へえー、師匠、持てたんですね。
もう、相手構わずでしたか。 狂
7 猫の声耳に残って誰彼と 狂
(誰も見てないからって…。よいしょ、しとくか。 狂)
えっ、何と? 吉
いえ、猫の恋は凄いですね。
人間に習って今じゃ、年中、恋の季節ですよ。 狂
8 名残の風のひたすら侘びし 順
そうなのよね。近所の人の声も煩くて、眠れやしない。 順
そ、そんなに激しいのか。 吉
もう、うちのことじゃ、ありませんてば。
うちは、とんと、ご無沙汰ですから。
ホント、隙間風が吹いてますって。 順
勿体無い…。 吉
……。 狂/順
9 落ち切れぬ渋柿揺らし高き空 吉
熟してはち切れんばかりなのが、食べられもせず、ただ、散るを待つ。
こんなに早く秋風が吹くなんて。 順
生唾、ゴックン。 吉
10 やがて落ちての地の花哀れ 狂
コホン。
ま、何事も終わりはあるもので。
熟した柿が路面に落ちて、薔薇や椿のようになる…。
哀れですね。 狂
あんたのせいよ。 順
コホン。 狂
ゴクン。 吉
秋月11何事も夢かと余所見秋の月 順
自然って、凄いわよね。
人の嘆きも知らぬ顔に地上世界を照らすだけ。
なんだか、心の中が見透かされているような。 順
見透かされて拙いようなことでもあるのか。 狂
12 見られて照れる柄じゃなし 吉
ワシのような人間ともなると、明鏡止水の境じゃ。 吉
(神経が図太いだけじゃ……。 順)
1 テストだと騒ぐ子の声背に受けて 狂
月影って、何処までも追いかけてくる。
で、テストとなると親に付き纏うに子に換えてみた。
中間テストの季節で家にいると、勉強、教えろと煩くて。 狂
2 何問われても知らぬ存ぜぬ 順
そうそう、勉強しろとは言えても、教えてあげるとは言えない。
まあ、我が家では自己責任を徹底してますから。 順
3 新しき教科書の香り失せ 吉
中間テストの頃ともなると、教科書も大分、傷んでくる。
新品の本の感は、何処へ行ったやら。 吉
4 書読むゆとり今にして知る 狂
学校の話はよしましょう。
教科書じゃなくて、書ということで。 狂
何、偉そうなこと、言ってんの。
新聞、それも競馬の欄しか読まないくせに。 順
競馬新聞を読むのも立派な読書だ! 狂
5 捌く身の生みの苦しみ知るがよし 順
本を書いたり、連句を巻いたりって、大変なのよ。
ね、宗匠! 順
さすがじゃ。君は見所がある。
やっぱり、個人授業じゃ。 吉
6 男には知ることのなき海 吉
生みの苦しみから、命の海を。
やっぱり、男には女ってものは分からんものじゃ。
子どもを産むという感じは、男には一生、分からんの。 吉
はい。理解できないってことだけは骨身に沁みてます。 狂
だったら、もっと、普段から優しくなさい! 順
怖い! 狂
秋月7 秋の海照らす月さえ見えぬ底 狂
でも、海の偉大さは、さすがの月さんも持て余すよね。 狂
あらら、分かったようなこと、言っちゃって。
じゃ、わたしも負けずに。 順
8 海月なら知る命の海か 順
偉大さを知るのは偉大なもの同士ってことね。 順
そういえば、くらげなす漂える…って言葉があったな。
あれは海月か暗がりなのか。 吉
9 暗がりに転げたりしは石のせい 吉
そうそう、年のせいじゃ、ありませんて。
気落ちしないで、師匠。 狂
誰が気落ちしたって言った。
石ころのせいじゃなく、暗かっただけじゃ。 吉
(目も怪しいか…。 狂)
何と? 吉
10 削れ擦り減る下駄の歯可笑し 狂
寄る年波か、下駄や靴底の減り方、早いような。 狂
引きずっちゃうのよね。 いいじゃない。
自然も人間も痩せる、老いる、朽ちるが自然なのよ。 順
11満ち欠けは月影のもの風情かも 順
かもしれんが、慰めにはならんな。
第一、月影は満ち欠けするが、人は擦り減るのみじゃし。 吉
12 薄れるばかり寂しき眺め 吉
宗匠! いいじゃないですか。髪、薄くたって貫禄ですよ。 順
何、言っとる! あくまで自然の話じゃ。
近頃、風情の薄れがちなことを嘆いておるんじゃ! 吉
恋1 年毎に知るは恋の不可思議終わりなき 狂
体は衰えても、あっちのほうは不思議なくらいに…。 狂
何のこと、言ってんの。また、浮気してんじゃないの! 順
滅相もない。 狂
2 浮気心は果てあるがよし 順
そうそう、大人しくしてりゃ、優しくしてあげる。 順
3 涙ぐみ浮き世嘆くも涙出ず 吉
恋心かー。あるにはあるが、あの熱さは夢のようじゃ。
情けないことに、泣きたくても、涙が出ん。
体中が乾いておるのかのー。 吉
4 乾き物には窪んだ目あり 狂
涙が出ない、乾いてる、乾き物。ちょっと単純すぎますか。 狂
お主らしくて宜しい。 吉
花5 岩陰に咲く花健気命なり 順
落ち窪んだ目から、岩陰を連想しちゃった。
最初は眼窩を思い浮かべたけど、場所的に合わないし。 順
6 ひねもすのたりこれもよきかな 吉
なるほど。植物の生命力は凄いものじゃ。
岩だろうが、コンクリートだろうが、突き破って芽を出す。
それはそれとして、のーんびり過ごすのも乙じゃぞ。
これが人間という気がする。
さ、寝よう! 吉
誰、見て、言ってるんです。 狂
いいじゃないの。これも風情よ。 順
お前! 狂
| 固定リンク
「俳句・川柳」カテゴリの記事
- 雨粒の砕けて散って寄り添って(2014.05.27)
- 雨音を窓越しに聴く日長かな(2014.04.21)
- チンドンの囃子も映えて春の空(2014.04.21)
- 白木蓮小鳥の憩う宵ならん(2014.04.02)
- 好きなのとなぞる指先白き胸(2014.02.12)
コメント
歌仙は、二花三月がそれぞれの座に入ります。
月は表六句の五番目。ここに秋の月。
他に、無季の月、短句(七七)で夏の月か冬の月を入れます。
要するに、歌仙の三十六句を通してきちんと流れが通り、しかも緩急があるように配慮されている。それが式目。
自動車の運転を安全でスムースなものにするためには、交通標識を知らなければならないのと同じです。
メ
投稿: 志治美世子 | 2006/06/27 22:40
志治美世子さん、なかなか難しいもの。でも、勉強しがいがあります。やはり、ちゃんとした宗匠というか捌き手がいないとダメですね。
次はいつになるか分からないけど、三人が集まったら、もう少し勉強して、再度、挑戦します。
決まった場所に決まった座に当てはまる句を作るだけじゃなく、序破急の流れってのが肝心のようですね。例の歳時記を見ながら頑張ります。
投稿: やいっち | 2006/06/28 07:22
今年の愛媛県全国連句大会で、「松山市教育長賞」をいただいた巻です。形式的には整っていますので、ご参考になれば幸いです。
捌きはやっぱり経験者じゃないと難しい。回り道によるロスが、あまりにももったいない。
よろしければ、出前しますよ。
歌仙「夜の雪」の巻 衆議判
青春のコッヘルで煮る夜の雪 仏淵 健悟
ふわりとしたる白鳥の背な 伊藤 哲子
数式に√(ルート)の果てを追いかけて 志治美世子
鏡に映る時計見返り 健悟
月の舟プルシャンブルーの大海へ 哲子
柿の葉鮨を衆で分け合う 美世子
ウ 爽やかな瞳を持ちし楽屋猫 健悟
路地真直ぐに亀戸天神 哲子
十六の肌に冴えたる藍紬 美世子
夕べの夢を聞きたがる彼 健悟
崩されたオムレットにはペパーのみ 哲子
遅刻厳禁定期更新 美世子
株の値を睨み続けて梅雨の明け 健悟
西瓜割るごと月を蹴飛ばす 美世子
志ん朝も談志もよかろ江戸落語 哲子
ホームの椅子は腰に優しい 健悟
渦潮を抱く入江は花に満ち 美世子
田鼠化しては鶉となるや 哲子
ナオ 面倒な人付き合いを麗かに 健悟
馘首怖くて辞令破れず 美世子
ゆっくりとラオス珈琲味わいて 哲子
夢占いに現れる蛍 健悟
配給の鉛筆配るNPO 美世子
幾山河越え塩の湖 哲子
ぱたぱたと勝ち誇りたる象の耳 健悟
爪を染めたる赤き実の汁 美世子
あるあしたままごとのまま妻となり 哲子
畳んでくれぬ洗濯機とて 美世子
テノールの響き朗々月の庭 健悟
神いますごと色変えぬ松 哲子
ナウ 秋鯖のほどよく焼けて酒の膳 美世子
皆に推されて会長になる 健悟
無頼派の一念通す取材記者 哲子
雲雀東風から軽くいなされ 美世子
花霏々と降りて明るき俵口 健悟
画布のかなたに駆ける若駒 哲子
起首 平成十八年 一月 二十五日
満尾 二月 九日
於 高田馬場ルノアール
投稿: 志治美世子 | 2006/06/28 08:32
いやあ、いきなり「衆議判」という言葉が分からず。
「参席者が自由に発言し批評して、多人数で歌の優劣を決めること」なのですね:
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/utaawase/utaawase.html
よく分からないのですが、三人の順番が途中で変わっても構わないのですね。
やはり、三人でのそれぞれの発想の違いが左右しあって、面白い展開に。序破急の流れを読むのが(作り出すのはもっと)難しいようだ。
「出前」、小生、この数年、ピザを特別のお祝いの時に頼むだけ。重い腰の小生ですが、なんとか、こちらから師匠のところへと思ってはいるのです。
「起首」「満尾」の間に二週間があるって、二週間で作り上げたってことなの?
投稿: やいっち | 2006/06/28 20:23
順番が入れ替わるのは、同じ人に月の座や恋句が集中するのを避けるためです。
普通、発句は宗匠、脇句が主賓。五句目の月の長句を詠んだ人は、その後の月や花は他の人に譲ります(人数にもよるけれど)。
起首から満尾までの二週間は、このときには二回にわたって集まったと言う意味。
自分で読み返すと、名残りのオモテ二句目の「馘首怖くて辞令破れず」が、ウラの六句目の「遅刻厳禁定期更新」にイメージが戻っていることが気になって、心残りです。
平日に時間が取れるようなら、ぜひいらしてください。
絶対に損はさせませんから。
投稿: 志治美世子 | 2006/06/28 23:31
逐一、納得です。やはり実践に勝るものはないですね。
句と句とのつながり、あるいは発想の飛躍具合で分かるものもあるけど、ピンと来ないものもある。
想像力が貧しいと、付いていけないね。
前へ前へ。
投稿: やいっち | 2006/06/29 01:30