今日も走るぞ! 近場ですが篇
[読まれるに際しては、予め、別ページの注意書きをどうぞ、よーく、お読みください!]
[運](あああ、今日もダメだ。もう、三十分も走り回ってるのに、一人も乗せられない。さっきは惜しかったなー。もうちょっとだったのになー。前の車が突然、止まりやがるもんだから、こちとら追い越せなくって、オレの後ろの奴(タクシー)がオレを追い越しやがって、仕方なく、奴の尻を追って走ったら、すぐに客が見つかりやがんの。クソ! 忌々しい。運のない時はこんなもんかなー。また、売り上げの最低を更新しそうだ。ホムペの更新もサボってるってのに、売り上げのマイナスの更新だけは、順調かー。世の中、変だぞ! うん? 変なのはオレか。あああー。)
本日も運転主君、快調な滑舌(かつぜつ)のようである。天気もいいし、風はないし、交通量も多からず、少なからずといったところ(交通量が少ないのは不吉。町中に人の出、人影も少ない恐れもあるので)。でも、運転主君、やや弱気になってきたようだ。寄る年波もあって、愚痴っぽくなっているようでもある。この分だと、何処かの駅に車を付けそうである。ああ、やっぱり!
[運](ちぇ! しゃ、あんめいよ。駅に付けっか。小さい駅なのに、また、十数台も空車が並んでんだろうなー。ととと、あれ、数台しか並んでないよ。時間はっと。十一時半か。昼間だから、昼食前だから、お客さんが多いってこと? ってことは、一人も乗せられないオレは、よっぽど、運が悪いってことか。これだったら、最初から駅に付けとけばよかった。)
愚痴を零している間もなく、運転主君、いよいよ列の先頭である。彼、新米じゃあるまいに、未だに先頭になると、ドキドキするようで、バックミラーを覗く目はキョロキョロ。まるで挙動不審者の目である。どんなお客さんが乗ってこられるのか、楽しみなような、怖いような。
[運](お、駅の階段をトコトコ歩いてくる人が居る。あれは、お客さんかな。歩く様子がお客さんっぽい。急いでいるようだ。ビジネスマン風だし。昼前に、何処か行き着く必要があるんだろう。約束の時間がギリギリなのかな。ととと、奴、行っちゃったよ。素通りか。また、空振りだ!)
コンコン、と、窓を叩く小さな音。運ちゃん、驚く。
[運](しまった! 奴に気を取られている間に、お客さんに窓をコンコンされちゃった。悔しいな。ご年輩の御婦人だ。)
[運]「どうぞ!」
[客]「はい、近場で申し訳ないですけど、お願いします。」
[運]「いえいえ。いいんですよ。で、どちらまで」(この駅は、ターミナル駅ではないから、ロングのお客さんは期待できない。だから、近場のお客さんであっても、全然、、ガッカリしないんだよって、説明できたらいいなー。)
[客]「※▲なんです。すみませんねー、近くって」
[運]「※▲ですね。いいんですよ、距離など関係ないんですから。」(この不況なんだ。何処かの首相とか経済閣僚が景気は底をついたとか、上向きに転じたとか言ってるけど、何を頓珍漢なこと、言ってやがんだろう。こちとら、一人のお客さんを見つけるのにこんだけ苦労しているってのによ。それにしても、未だに近場だってことを気にして乗ってこられる人が多いこと。)
この運転主君は、「近場ですが」が、とりわけ、嫌いな言葉のようだ。可哀想に
これには、それなりの訳がある…。
おやおや、お客さん、窮屈そうな様子である。無口になっている。運転手君もお客さんの居心地の悪そうな雰囲気を察知してか、気まずいものを感じている。
[運](この御婦人、近場だからって、申し訳なさそうだったなー。そんなこと、ないんだけどなー。でも、殊更、近場だからって遠慮することないですよ、なんて言うのも、わざとらしいしな。オレの様子に何処か、不機嫌さを感じたのかな。かりにそうだったら、プロじゃないよなー。不機嫌かー。不況のせいなんだよな。っていうか、お客さんを乗せないタクシーほど、惨めなものはないよな。開店休業のラーメン屋さんみたいなものか。オレがダメなのかな。出来る人もいるしな。)
運転手君、ブツブツと胸の中で愚痴っている。一方、お客さんも、ずっと窮屈そう。運転手、とうとう我慢がならず、普段は語りかけたりしないのに、言葉をかける。そう、タクシーの車内空間を、束の間の時間であっても、少しでも居心地良く過ごしてもらいたいのだ。
[運](なんだか、可哀想になってきた。乗りなれた奴だと、勝手に煙草は吸って床を汚すは、突然、大声で電話して煩いわ、平気で屁やゲップをするわなのに、たまに乗る方だと、タクシーはこういうものだという古臭い偏見に固執されていて、近場だと運転手が嫌がると思い込んでいるんだな。むしろ、そのように言われることが不機嫌を誘うことのほうが多いのに。もっと、普通に乗ってもらえないかな。まだ、無理なのかな。クソ! 流儀に反するけど、何か、こちらから喋るか。やっぱ、天気に限るな。無難だからな。)
[運]「いやー、今日はいい天気ですね。昨日の夜は、雨が凄かった!」
[客]「あれ、そうですか。東京は雨だったんですか。」
[運](あちゃ、外れた。でも、話には乗ってくる人だな。よしよし。)
[運]「お客さん、どちらかからいらしたんですか。」
本来は、運転手がお客さんに質問するのは、行き先に付いて以外はタブーである。あくまでお客さんが運転手に語りかけるなら、それに対し、社会的常識の範囲内で応じるのが筋なのである。
だから、敢えて聞くにしても、さりげなく、当り障りのないことを尋ねる。返事がなくても、間違ってもムカッとすることがあってはならない。
[客]「わたしですか。長野から来たんですよ。息子に会いにね。あっちはね、昨日は晴天で、で、東京も晴れでしょ。気分がいいなって思ってたんですけど、昨日は雨だったんですね。」
[運]「長野ですか。いいですね(何がいいのか分からないけど)。行ってみたいですね。長野オリンピックの時は、できれば行きたかったけど、休みが取れなくて(あーあ、嘘、こいちゃったよ。オレ、雪、ダメなんだよな。寒いの苦手なんだよなー。ま、いっか。大体、何年前の話、やってんだ、オレ)。」
運転手、やや、赤面している。もともとは不器用なほうなのである。話題作りは苦手なタイプなのだ。愛想が悪いから、接客業なんて適していないのに、タクシーを選んだのが不幸の始まりだ。
[客]「ああ、あの頃は、長野も賑やかでね。でも、サッと、潮の引くように賑わいが消えちゃいましたけど。そうですか。長野へ来たかったんですか。長野はいいですよ。温泉もあるし、スキーもできるし、眺めはいいし。どうぞ、是非、いらしてください。」
そこまではよかった。その後は、お客さん、喋りっ放しである。言葉が途切れない。運転手、相槌を打つのが精一杯。走行中、長野のこと、上京した理由、天気のこと、息子のこと、見物に行く予定の芝居のこと、体調のこと、ご主人の酒癖が悪いこと、などなど、延々と話が続くのだった。終いには、目的地に着いて勘定をしている最中も、お喋りが止まらない。
[運]「◆◎円です。」
[客]「そうですか。安いですね。あの、千円札で申し訳ありません。」
[運]「千円ですね。はい、御釣りと領収書。忘れ物のございませんようにー。」
[運](安いって、基本料金なんだから、当然なんだよね。)
[客]「はい、確かに。でね、うちの亭主ったら、昨日もね、呑みに行って、帰ってきたのが真夜中過ぎ。寄り合いがあったからって、そんな、ねー。奥方が息子に会いに東京へ行くっていう前日ですよ。なのに、夜中に帰ってきて、相手させられ、お茶漬けを出せとか言われ、朝は朝で、昼食の用意までさせられて、さんざん。いいけどさ。」
運転手、お客さんのお喋りに釣られて、思わず、「毎度ありー」などと言いそうになったりしている。
お客さん、タクシーを降りて、釣銭を財布に仕舞いながらも、まだ、お喋りが続く。
それでも、ようやく、彼女、運転手を解放してくれた…と思ったら、振り向いて、長野へ是非! と、まだ話し足りない風情である。刑事ものドラマで、犯人のもとに捜査に来て、さんざん、聴取して、さて、やっと帰りかけたかと油断したら、また、振り向いて、あー、すみません、あと一つだけ、質問させてください、という、あの場面を連想する。
度重なる質問に辟易している中、やっと帰ると油断した瞬間、あと一つと言われると、犯人は、刑事に立ち去ってもらいたい一心で、ぞんざいな返事をしたり、思慮に欠ける情報をつい漏らしてしまったりする。
そんな場面である。短気なこの運転主君なら、プッツンするところだろう。
[運](ひえええー。いつまで話が続くんだ。オレをいつになったら、解放してくれるんだ。あれだったら、亭主が帰りたがらないのも、無理はないな。旦那さん、可哀想。桑原、桑原だ。ととと、お、ようやく、奥さん、去ってくよ。ああ、助かった。ま、いっか、とりあえず、お客さんの、申し訳なさそうな気分だけは吹き飛んだはずだし。これで良しとしようっと。)
というわけで、運転主君、気分を切り替え、次のお客さんを探しに、車をブブーと走らせたのだった。
早く、次のお客さん、見つかると、いいね!
| 固定リンク
「小説(タクシーもの)」カテゴリの記事
- 闇に浮ぶ赤い花(2007.10.06)
- 白いドレスの女(2005.08.18)
- 行く先は何処(2005.06.27)
- 今日も走るぞ! 一人相撲篇(2005.03.19)
- 今日も走るぞ! ここは何処?篇(2005.02.27)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/52847/3204273
この記事へのトラックバック一覧です: 今日も走るぞ! 近場ですが篇:


コメント
(ノ´▽`)ノオオオオッ♪ 新作・・
このおばさんの気持ちはよくわかる・・
近場の人はお客扱いされないんじゃないか?
という心配をしたりする・・
でも、あまり卑屈になると相手も気分を害するんだな・・というのが今回わかりました。
今日のを読んでいて思ったのですが・・
斜文字の部分が増えている・・…o(;-_-;)o
これはこれで必要な事が書いてあるのでわかりやすくていいのですが・・
あんまり長いとせっかくの小説部分が逆に脇役になっちゃう気がします。
この説明を さりげなく運転手さんと客の会話や情景描写でわからせる方法なんてのはないかなぁ・・
(/||| ̄▽)/きゃーごめんなさい・・生意気でしたぁ・・
投稿 tanu | 2005/03/08 13:53
tanuさん、そのとおりなのです。書きながら、小生も悩んでいます。とりあえず、「「今日も走るぞ!」注意書き」だけは、別頁においやったけど、脚注というか、ト書きの処理に困っている。
次に書く時は(多分、二週間先)、注意書きと同じように、大部分は別頁にして、本文には必要最小限のことを入れるようにします。
うん。おいおい、もっと、読みやすくなるよ(断言しちゃったよ)。
これからも、気が付いたこと、ドシドシ指摘してね。ありがとない。
投稿 弥一 | 2005/03/09 14:33
前より 読み易くなりましたぁ。
この方法だと まだまだ削れそうですね。
古いカナ使いの小説や時代背景の昔の物など良くこんな風に 注1*とかふってあって
巻末に その説明が載ってたりするあの感じ?
で・・今日のを読んでて ふと思ったのですが・・これは 運転手さんを見ている 誰かの視点で書こうとしている小説なのかな・・
運転手 が主人公での小説なのかな・・
そこを決めると もっと削ったり足したりする場所がはっきり見えそうな気がしました。
ヘ(。。ヘ)☆パシッヽ(^^;)えらそーにばか者!!
↑tanu
投稿 tanu | 2005/03/14 17:35
tanuちゃん、アドバイス、ありがとう。
実は、今夜(既に昨夜かな)、せっせと第四作に取り組んで見ました。アドバイスを生かして、余計な脚注は抜かして、できるだけ、運転手の無言の独り言を増やして、「運転手 が主人公での小説」というスタイルに固めて。
ただ、独り言がやたらと長くなって、夜半までには書き終えることができなかった。パソコンがフリーズしたし。
出来たところだけでも、アップしたほうがよかったかしら。とにかく、次の連休にはアップしますね。
このシリーズ、書いていて、結構、楽しい。機会をくれて、ありがと。
投稿 弥一 | 2005/03/15 01:42
((o( ̄ー ̄)o)) 楽しみにしています。
やっぱり 一応出来上がってから読みたいです。
途中までだと気になって気になって・・
寝れなくなる・・(ノ゜⊿゜)ノあうぅ!!
投稿 rudo | 2005/03/15 10:28
タイトルを「お化け篇」にするか、「独り言篇」にするか、迷っている。「お化け篇」のつもりで書き始めたけれど、脚注を減らす意味もあって運転手の(内心の)呟きを増やしたら、この運転手の愚痴やら独り言やら呟きやら溜め息やらの多いこと。弥一節…じゃない、この運ちゃん節が演歌の節回しというか、こぶしのようにグルグル回っちゃって。
ところで、「お化け」って、どういうことか知ってます。もち、タクシー用語だけど。
投稿 弥一 | 2005/03/16 15:06
お化け? taxi用語? (@o@)
知らない・・なになに?
…o(;-_-;)oドキドキ♪
投稿 tanu | 2005/03/17 15:54
あれ、やっぱり、知らないのね。当然かな。かなりローカルな業界用語(?)だし。
なんとかこの週末には書き上げたい。その中で説明するね。ただ、「お化け」にはあまり深い意味はないの。メインは、運転主君の独語かも。
投稿 弥一 | 2005/03/18 19:58