2015/05/25

ボク ペノベックの猫を眺める

 ボクは猫を眺めていた。ベランダの手摺に凭れて、息を潜めるようにして、 猫を眺めていた。
 猫の奴は眺められるのに馴れている。それとも、ただ、ボクに無関心なだけ なのかもしれない。

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← エンドレ・ペノベック(Endre Penovác)作 (画像は、「Watercolor Cats by Endre Penovac «TwistedSifter」または「Cats Fluffed Up Through Smudged Ink and Watercolor Paintings - My Modern Met」などから)

 でも、そんなんことはどうでもいい。大切なことは、猫を眺められる、心行 くまで猫の姿を楽しんでいられるという、そのことだ。
 猫の奴は、って、あいつがオスなのかメスなのか、未だに分からない。

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2015/02/06

旅の空にて

 ある旅の空でのこと。
 何故か眠れないままに宿を出た。
 部屋の明かりを消した時、窓のカーテンの隙間から洩れ込む月の光があまりに 眩かったのだ。何かただならぬ気配が漂っているような気さえした。

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 外に出ても何があるわけでもない。山間の宿らしく、鬱蒼と生い茂る木 々の黒い影。宿の玄関の明かりも、深い海の底を照らす懐中電灯ほどの力もない。
 砂利道を辿って森の中へ歩いて行った。もう、人の光は一切、及ばない。

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2014/10/09

この滑稽なる人生!

 歪んだ命。踏みつけられた心。草葉の陰の体。
 命は砕けた岩の隙間を縫うようにして這い上がる。光へと。上へと。真っ直ぐ。

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← お絵かきチャンピオン作「赤目顔スーパー」 (この絵の画き手をもっと知りたい方は、「小林たかゆき お絵かきチャンピオン」を参照のこと。以下同様)

 どんなに踏みつけにされても、命は毛細管現象を生きる。駆り立てられて。あるいは生き急ぐように。
 光ある世界へ。地を毛嫌いすることもなかろうに。

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2014/09/27

自由を求めて

 思いは頭の中で沸き立っていた。ただただやたらと淋しい思いが脳みそを引っ掻き回し、体の中を無闇に駆け巡る。
 吐き出したいほどの淋しさがオレを一層の赤い闇へと追いやっていく。

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 居場所などどこにもない。あるのは、ここじゃない、何処か他の場所、黒い丘の向こうに何かある、すぐにもそこへ向かわないと間に合わない、という切迫した狂熱。
 誰かがオレを待っていてくれる。もう、待ち草臥れるくらいにオレを待っていてくれたんだ、それを愚かなオレはこの期に及んでやっと気が付いた…。

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2014/09/16

そしてボクは世界の

 真っ昼間。ぽっかり空いた公園。
 ボクを圧倒する眩し過ぎる太陽。白い光が溢れ返っている。
 立ち竦むしかない。薄っぺらな自分が露わだ。

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← 「ブランコ」 (画像は、「ブランコ - Wikipedia」より)

 誰もいない。みんな、何処へ行ったの?
 ボクとの約束はどうなったのか。ああ、そうか、誰とも約束しなかったっけ。誰一人、お喋りする相手もいないんんじゃ、仕方ないね。

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2014/07/18

影を慕いて

 影を探して回った。影が見当たらなくなったのだ。
 梅雨特有の曇天のせいだと思いたい。ほんの一時の、何かの間違いであってほしい。
 とはいっても、影がないのは、何とも淋しい。自分が薄っぺらく感じる。


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← 大西巨人/著『神聖喜劇 第二巻』(光文社文庫) 明日から、読み始めるぞ! 戦争をする国に再び、しようというのなら、せめてこんな本を読んで、戦争の悲惨と酷さを思い知らないと! (画像は、「神聖喜劇 第二巻 大西巨人 光文社文庫 光文社」より)

 影がない…。いや、あることはあるのだ。どんよりした雲のせいで、影がぼやけてしまっているだけなのだ。
 そう考えることもできなくはない。
 ただ、それだと、夜になっても影が薄いことの説明がつかない。

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2014/04/07

終わりよければすべてよし

 あれは、大団円を大円団と思い込んでいたころ、そう、そんなに遠い昔とは言えない頃のこと、そうそう、悪銭身に付かずをしみじみ実感した頃でもあった。ホント、あの頃は、青菜に塩じゃった。病気までして、弱り目に祟り目とはあのことじゃ。

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← 富山市の松川にて。一昨日辺りが最盛期だったか。

 朝起きは三文の徳と、朝から晩までせっせとあくせく働いて稼ぐのが一番と思い知ったものだ。親の意見と冷や酒は後で効くっちゅうか、親にもいろいろ意見されたけど、やっぱり、凡人は何でも後の祭りなのだね。
 兄弟は他人の始まり、まして親子は、ね。

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2014/01/13

真冬の夜の帰り道

 真冬の帰り道のこと。月影はないけれど、澄み切った天空に星屑が瞬いている。
 それはどんなダイヤモンドより美しい。手が届かないがゆえの高貴さ。
 手はポケットに突っこんでいる。悴む手を寒風に晒す勇気はない。頬に当る空気は酷いほどに痛い。マスクをすればいいのだろうが、何もかもを覆って歩くのは何か躊躇われる。
 生き物の矜持? 違う。痛みを感じてみたいだけなのだ。

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2013/11/20

片道切符の階段

 ホントに何もしないわよね。 ホントさ。ちょっと御伽の城に入ってみるだけさ。ほら、キラキラして綺麗だろ。 素敵は素敵だけど。中に入るともっと凄いよ。 ホント? 窓からは夜景が見事なんだ。俺たち自身がイルミネーションになるのさ。 人生はすれ違い。熱くすれ違おうぜ。

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2011/09/23

シルクの海

 誘われるがままに、部屋に行き、誘われるがままに絹の海を泳いでいたのだ。暖かな綿の海。柔らかな白いシーツの波間。滴る汗。歓喜の声。オレの目一杯の愛撫にもあまるあいつ。あいつの白い体が今も、鮮やか過ぎるほどに脳裏に浮かぶ。

 いや、確かにそこにあいつがいると思えてならない。そこで笑み、そこで怒り、そこで泣き、そこで快楽に身を持て余し、涎と愛の香りとがベットリと二人の宇宙を満たしている…。

 けれど、あいつは、オレ以外の数知れない男達とも愛を交歓していた。決してあばずれなんかじゃないのに、出会う男の全てに純粋な愛と肉体を捧げていた。愛とは、瞬間の煌き。絶えざる絶望。林立するポールの上の無数の海鼠。

 オレは、空白を埋めようとした。

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