日に何度も夢を見るわけは
← ヨハン・ハインリヒ・フュースリーの「悪夢」(1802) (画像は、Wikipediaより)
昨日の日記で、「それにしても、この頃よく夢を見る。…というか、夢をメモるようにしている。睡眠は睡眠障害を抱えた身なので、いつも細切れ。目覚めるたびに夢。あまりに頻繁なので、メモするのも億劫に。それでも覚えている限り、時にはメモしておく。夢を正確に描く表現力も、その前に記憶力もないのだが。」と書いた。
昔ならベッド脇に常備してあるメモ用紙に、メモ書きするのだが、今はスマホである。
寝起きに忘れないうちに夢をメモする。
だが、目覚めた瞬間に覚えているのは、あくまで夢の一場面である。大概、前段は目覚めた綺麗に消滅する。何とかメモったとしても、後段も消え去っている。
では、辛うじて覚えている場面は何か印象的だから記憶に引っかかったのか。そうでもないようだ。たまたま目覚めへのとば口に、それこそ逃げ遅れた夢の欠片たちが、撒き餌のように差し出された残飯であって、睡眠の中で展開された夢の本編は目覚めた瞬間、取り落した豆腐のように大地にグシャッと粉々になっている。
夢は何故に見るのか、そもそも夢は眠っている最中に筋のあるものとして見られているのか。それとも脳の中の鎮まり切らない神経細胞が立ち騒ぎ、それを日中なら外界から得られた視覚や聴覚、嗅覚などからの情報を組み立てる中枢が、外界からのものとして勘違いして何とか辻褄を合わせようとする…だけど、そもそも途切れた断片的な刺激、神経の揺らぎに過ぎないから、中枢の性質として無理にも物語として組み立てる、その<物語>は、尋常な観客である<私>には理解不能なままに映像が流れ去っていくのか。
吾輩は十歳の頃からの頑固な睡眠障害。そもそも吾輩にまともな睡眠はなかった。失われてしまった。鼻呼吸が不能では眠れるはずもない。睡眠時間帯はあってもそれは世間的な夜の時間帯に過ぎない。夜になると睡魔が来るから寝入る、だが、あっという間もなく大鼾である。目覚める、睡魔で寝る、起きる、の繰り返し。所謂<朝>になる。常人たちの朝。吾輩には一睡もできずに迎える一日のスタートの時間。
疲れ果てた体を起こす。体は全身疲労困憊している。脳味噌は真っ赤に焼き付いてしまっているのではないか。まともな睡眠のない脳と身体。我輩にとって、日中とは取ることの叶わなかった睡眠と休息を懸命になって取り戻す時間帯。
朝は呆然としている。世間体や、親たちの手前、起きた振りをし、食事をし、支度をして学校なり会社なりへ出掛ける。疲れ果てた体に鞭打って。
昼行燈。頭の中は真っ赤な闇に落ち込んでいる。肉体は長年の頑固な疲労が澱の塊になっている。呆然自失の自分。授業中でも、うっかりしてるとガクンと睡魔に囚われ寝入りそうになる。
しかも、鼻呼吸ができず油断すると口呼吸し始めそうになる。というか口呼吸しかできないのだ。だが、体の要求に従って口呼吸すると、口をガバッと開けて、ハーハーとやりかねない。そのほうが楽だし、そうしないでは居られないのだ。
でも、他人の前でそうするわけにいかない。口を薄く開け、静かに口で息をする。睡魔と苦しい息とにひしがれ続ける日中。何もする気力が湧かない。湧くはずもない。可能なら、誰も見てないなら、その場にぐったりして寝転がりたいのだ。
十歳から鼻呼吸が不能になった。ぐっすり眠ることができなくなった。所謂朝になると、起こされる。疲れ切っている自分。
当時は訳が分からず、体がこんなに疲れ果てるなんて、何かの悪い病気じゃないかと本気で疑っていた。休みの日など、石のようになった体を奥の座敷へ引きずるようにして持っていき、座敷で寝転がり、石のようになった体を少しでも和らげようと試みた。俺の体はどうなってるんだ? 誰かに問いかけたかった。でも、俺には訴えかける相手などいない。
悩みは内向するばかりの俺。
2010年の夏、父母が亡くなって初めて俺は病院へ。今度こそ、根治を求めて。1993年や1994年に手術をしたが、外形や下鼻甲介の切除という半端なものでしかなかったのだ。そう、今度こそ。医者曰く、技術が伴わず、ようやく根治を視野に手術ができたはずという。
一応は鼻呼吸が可能になった。ただ、口呼吸が癖になっているので、訓練しないと鼻呼吸ができない。
さて、睡眠時間帯の睡眠は可能になっているのか。手術前よりは幾分はましになっているらしい。だからか、二三時間は眠れる。だが、それ以上の睡眠の持続はできない。未だに細切れ睡眠。数回繰り返してようやく目覚める…ようだ。
日に何度も夢を見る。それは細切れ睡眠が習い性の自分ならではの現象なのだ。
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