ほぼ終日の冷たい雨の休日
← ル・クレジオ著『ル・クレジオ、文学と書物への愛を語る』(鈴木雅生訳 作品社) 「世界の古典/現代文学に通暁し、人間の営為を凝縮した書物をこよなく愛するノーベル文学賞作家が、その魅力を余さず語る、愛書家必読の一冊」【本書の内容をより深く理解するための別冊「人名小事典」附】
今日は休日。ほぼ終日冷たい雨。小雨だが庭仕事には適さない。お蔭で堂々と外仕事をサボれる。読書三昧するには、洗濯二回やら雑事、あと先週末は珍しく忙しく、疲れ気味で、居眠り三昧になったのは、残念。
それでも、外仕事に時間が奪われなかっただけ、少しは本を読めたのは嬉しい。読んでいたのは、下記する『ル・クレジオ、文学と書物への愛を語る』の読了と、旦部 幸博/北川 善紀共著の『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界 歴史…』、『ジル・ド・レ論―悪の論理─ (ジョルジュ・バタイユ著作集)』をそれぞれ少々。
車の中では、チェーホフ作の『狩場の悲劇』 (中公文庫)を読み始めた。いかにもロシア文学的チェーホフ的語り口で、仕事中なので齧り読みしかできないが、それでも接するだけで楽しい。
ル・クレジオ著の『ル・クレジオ、文学と書物への愛を語る』を本日午後読了。好きなル・クレジオの近著なので即購入。原題は、「中国での十五の講演 詩的冒険と文学的交流」とある。出版社は、中国を嫌う風潮が蔓延しつつある世相を忖度したのか、本書の内容案内には、中国が舞台の講演録だとは全く匂わせない。
本書の序は、翻訳学の泰斗であり編者でもある許鈞(シュジュン)によるもの。ル・クレジオとの長い交流があるからこその序文。だが、読み始めた際は、同氏を知らず読み流してしまった。そこまでの絆があるとは、後書きを読んで気付いた。慌てて読み返した次第。読まれる方は、丁寧に読まれることを薦める。
ル・クレジオの中国への関心は二十代の頃に遡ることを本書で初めて知った。
毛沢東熱(マオイスム)がヨーロッパで(やがて日本でも)高まっていた頃。紅衛兵跋扈の時代である。
彼は好奇心に駆られ、兵役代替の海外協力役務としての中国への派遣を希望したが叶わなかった。やがて(四十年後!)縁(彼の作品が二〇〇六年「二十世紀最優秀外国小説」に選ばれ)あって中国へ。以来二〇一七まで毎年秋の三か月を中国で過ごした。
中国文学への傾倒ぶりが嵩じると共に、欧米に限らない文学的造詣も相俟って、面白い読み物となっている。
但し、訳者あとがきに指摘されているが、ある種の偏りが見られる。それは、欧米や日本などの植民地化の暴挙を指弾する一方、肝心の中国の言論封殺や国内少数民族の弾圧などについては一言も触れない。これは迂闊なる吾輩も気付かないわけにいかなかった。招待国への配慮なのだろうか。
それはそれとして、中国文学(に限らないが)の奥深さをいまさらながらに気付かされ、それなりに孔孟やら李白杜甫蘇軾(唐詩)、魯迅、巴金、老舎、莫言、 『西遊記』も『水滸伝』『三国志』も、その前に『史記』も『紅楼夢』も孫子、王維も墨子も読んでいない不明を情けなく思う。
本書でル・クレジオは、老舎を高く評価し、中でも彼の『四世同堂』に何度も言及している。これは読まなきゃならない。
ル・クレジオファンのみならず文学ファンは楽しめるに違いない。
← 孫崎 享著『平和を創る道の探求』(かもがわ出版) 「ウクライナ危機の「糾弾」「制裁」を超えて 深読みNowシリーズ5」 「ウクライナ危機の本質に迫り、和解の道を探る。そこから新世界秩序を展望し、台湾、尖閣、北朝鮮など、日本の平和への道筋を示す」
孫崎享著の『平和を創る道の探求』を15日(土)に読了。読みたい本じゃなく、読むべき本。大本営発表風なニュースが蔓延してる。踊らされちゃアカンという思いで一晩で一気に読んだ。著者の本は、『戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)』に次いで二冊目。先週13日、同氏の講演会に足を運び、その会場で本書を買った。同氏の応援の意味合いも込めて。
世論はロシア・バッシング一色だ。世論といっても、西側諸国の話。インドを始め中国など、そんな論調に踊らされている国々ばかりじゃない。
マスコミでここまで論調が偏っているということは、政府の意向、つまりは今や世界一強なれども、中国にその座を脅かされつつあるアメリカの意向・戦略が働いていると見るのが妥当だろう。
知っておくべき情報満載なので、感想じゃなく、知るべき情報を若干メモする。
まず、著者は、「1943 年、旧満州生まれ。東京大学法学部を中退し、外務省に入省。英国、ソ連、イラク、カナダ駐在、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任。現在、東アジア共同体研究所長。ツイッター、ニコニコ動画など、ソーシャル・メディアにも注力。山本七兵賞受賞」という経歴を持つ。
「外務省の国際情報局長と言うまさに国の運命をインテリジェンス(情報収集と分析)を担った現場に責任者(外交官)をし、その後、防衛大学で国を守るということはどういうことかを、教授した外交のプロである」。
本書のテーマは、「ウクライナ危機の本質に迫り、和解の道を探る。そこから新世界秩序を展望し、台湾、尖閣、北朝鮮など、日本の平和への道筋を示す」ことにある。
孫崎は、戦略家でありリアリスト(紛争の解決では百パーセントどちらかが満足するのではなく、半ばを採る方策を探る)であり原理原則を大事にされる方だという印象を講演会での話でも、本書での語り口からも強く印象付けられた。
ロシアによるウクライナ侵攻は長引く様相を見せており、下手すると泥沼に陥りかねない。アメリカをバックにEU側は力でロシアを抑え込もうと躍起だ。解決の道はあるのか。孫崎は、西側諸国が当初約束してきたように、NATOの勢力範囲を東方に拡大しない(従ってウクライナがNATOに参加しことない)こと、ウクライナのゼリンスキー大統領が、(古くからロシア系住民の多い、歴史的領土でもあったウクライナ)東部のドネツク州とルガンスク州への締め付けを自制する(東部二州の民族自治権を認める)、この二点に集約される。
いずれにしろ、ウクライナ(ゼリンスキー大統領)やEUつまりはアメリカ側の主張だけじゃなく、ロシア(プーチン大統領)側の主張にも耳を傾けるべきだ。少なくとも日本のマスコミからはプーチン大統領の切羽詰まった意見は聞こえてこない。
ネットで探しても、プーチン大統領の主張を正確に伝えるサイトが見つからない(あるのだろうが、ネット検索では発見が困難)。大概が政府やアメリカの意向に沿うような、日本のマスコミ人による<解説>であり<解釈>が伝えられるだけだ。
アメリカの戦略は、主敵である中国に本格的に立ち向かう前に、ロシアの孤立化弱体化を狙ってのものだろう。
本書では、中台問題や、北朝鮮問題、尖閣問題にも触れられている。いずれも説得力のある説明があり、読み応えがある。一つの有意義な意見として、本書の一読を薦めたい。
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