« 無惨やな地に顔擦って百合の末 | トップページ | 龍伝説を語る »

2022/08/18

落胆の口直しにモームを読む

 ← 今村 夏子【著】『むらさきのスカートの女』(朝日文庫) 「「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導し……。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。」

 木曜日は休みだった。雨がちで、晴れ間もあるが、それっとばかりに洗濯物を干すと、いつの間にやら雨になって、という繰り返しで天気に翻弄される一日だった。

 外仕事する気力もわかず、かといって読書にも身が入らず。

 それでも、 モーム作の『人間のしがらみ(上)』 (光文社古典新訳文庫)を読み始めた。モーム作品の有名なものは一度ならず読んできた。この作品も旧題の「人間の絆」で二度(原書でも一度)読んでいる。上下巻で1300頁ほどの大部作品だが、それがプレッシャーにならないのは、楽しめると分かっているからだろう。

 アンドルー・ラング著の『夢と幽霊の書』の落胆の口直しである。

 今村 夏子作の『むらさきのスカートの女』を17日に読了した。芥川賞受賞作品などあまり読まない吾輩だが、本作は何故か当初から気になっていて、書店に寄るたび日本文学のコーナーを物色。だが、見つからない。ないはずはないのに…。

 それが、この6月に文庫入りを知った。たまたま7月に書店に足を運び、早速探した。今回は見付かった。

 正直、読み出した冒頭から既に物語の…というより語り口に魅入られた。いろんな感想を読んでも面白かったという人と、つまらない、こんなのが芥川賞かという全く相反する評が。毀誉褒貶喧しい作品。

 吾輩は面白かった。少なくとも既存の作家作品にない持ち味がある。そのテイストに合う人はファンになるだろう。

 物語…があるとすれば、目立たない女性が、奇妙に目立つ、誰もが気にしてしまう謎の女性をストーカーするというもの。ドラマがあると言えばあるが、ないと言えば、何もない。結末もそこで終わるの? なのだが、ま、これもありかとも感じられる。

 つまり、持ち味が独特過ぎて掴みどころがない。でも、この作家にしか書けない作品だろうとは思う。

(追記)逆読みすると、引きこもりだったという作家が、ある気になる女性をストーカーすることで、自分が外出する、つまりは世間に出るというハッピーな物語でもあろうか。

 

 ← アンドルー・ラング著『夢と幽霊の書』(ないとうふみこ訳 吉田篤弘巻末エッセイ 作品社)「ルイス・キャロル、コナン・ドイルらが所属した心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し短篇「琴のそら音」の着想を得た名著」

 アンドルー・ラング著の『夢と幽霊の書』を18日に読了…というより、途中から流し読み。漱石がロンドン留学中に原書で読み、後の「琴のそら音」や「夢十夜」などの創作にも影響を受けた書らしいということで、期待が先行していた、その分、がっかり感が強い。

 人によっては面白いかもしれないが、吾輩は落胆。この本のどこが漱石を刺激したのか、さっぱり分からなかった。

 

 ← 田宮 虎彦 (著)『 たずねびと―人間への郷愁 随筆 (1955年)』(カッパ・ブックス)

 田宮 虎彦 著の『 たずねびと―人間への郷愁 随筆 (1955年)』を読了。今更だが初版本。下記する秋元不死男著の『俳句入門 (1955年)』と同じころに入手したものか。やはり経年変化以上にタバコのヤニ塗れ。手垢も混じっているか。

 田宮 虎彦の名は予てより知っていたが、作品は手にしたことはない(はず)。父の導きで奇しくも今頃になって読むことになった。

「田宮 虎彦(1911年 - 1988年)は、昭和期の小説家。『足摺岬』や『絵本』など希望の無い時代の孤独な知識人の暗い青春を描いた半自伝的作品や、弱者に対するしみじみとした愛情に支えられた独特のリアリズム小説を発表し、戦後高い評価を受けた。『落城』『霧の中』などの歴史物でも知られる。」(Wikipedia参照)

 作家は純文学を目指したようだが、次第に歴史小説作家と見なされるようになったようだ。本書は随筆集。今となっては田宮ファンか専門家しか手にしないかもしれない。吾輩は父の蔵書ということである種の感懐を持って読んだわけである。彼の本領は小説なので、作家としての評価は控えておく。

 

 ← 秋元不死男著『俳句入門 (1955年)』(角川新書)  

 秋元不死男著の『俳句入門 (1955年)』を奇しくも敗戦の日に読了した。父の蔵書。刊行は55年だが、本書は翌56年のもの。父が結婚して数年の頃か。若いころから俳句に熱心だったようだ。

 父の書庫にあったもの。整理していてたまたま目についた。読み出してびっくり。俳句関連の本は少しは読んできたが、俳論の書としては(吾輩が云うのも僭越だが)抜群だった。入門書として優れていると同時に俳論として傑出していると感じた。

 秋元不死男は、知る人ぞ知る特異な俳人。だが、不勉強な吾輩は彼の俳句作品も本も手にしたことはない。父の導きで出会うことになったわけである。

「秋元 不死男(1901年 - 1977年)は、神奈川県横浜市出身の俳人。島田青峰に師事し「土上」「天香」に参加。新興俳句運動に加わり、京大俳句事件に連座して投獄される。戦後は「天狼」参加を経て「氷海」を創刊・主宰。劇作家の秋元松代は妹。息子の秋元近史は『しゃぼん玉ホリデー』を手がけたテレビディレクター・プロデューサー。」(Wikipedia参照)

 経年変化に加えヘビースモーカーの父の蔵書らしくヤニ塗れで茶褐色の迫力が妙な存在感を示している。手触りを存分に感じつつの読書ともなった。

 恐らく、新版も出ているだろうし、あるいは選書に入っているのか。お勧めである。ちなみに、本書のカバー表紙絵は、マチス画の「レダ」。どうしてマチスなのか。秋元の好み?

|

« 無惨やな地に顔擦って百合の末 | トップページ | 龍伝説を語る »

読書メーター」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 無惨やな地に顔擦って百合の末 | トップページ | 龍伝説を語る »