積ん読本が十冊を切った
← テッサ・モーリス=鈴木著『辺境から眺める【新装版】 アイヌが経験する近代』(大川正彦訳 みすず書房) 「著者はオーストラリア在住の日本研究者として、数々の著書がある。本書においても、現代思想や近現代史・アイヌ問題など、その緻密な考察と開かれた問題提起は、じつに鮮やかである。戦前に樺太に住んでいた人たちとともにサハリンに向かう終章の紀行文もまた、みごとだ。」
28日は休み。外仕事もサボり、読書と居眠りに終始した。あまりに用事が多く、開き直って自宅謹慎。大作のモーム『人間のしがらみ(上下巻)』や、テッサ・モーリス=鈴木著の『辺境から眺める【新装版】 アイヌが経験する近代』などを読むのにそれぞれ十日以上を費やしていた…ことから解放され、ちょっと気分が軽くなったような。
なんと日曜は、積ん読本の山から三冊も取り崩すことができたのだ。
テッサ・モーリス=鈴木著の『辺境から眺める【新装版】 アイヌが経験する近代』を27日(土)読了した。内容の濃さに読了したというのは烏滸がましくて気が引ける。
書店の出版各社共催の新装版のコーナーにて発掘した本の一冊。
著者のテッサ・モーリス=鈴木は、「1951年生まれ。オーストラリア国立大学名誉教授。専攻は日本経済史、思想史。」著書に、『批判的想像力のために――グローバル化時代の日本』(平凡社ライブラリー)、『北朝鮮へのエクソダス――「帰国事業」の影をたどる』(田代泰子訳 朝日文庫)、共著にテッサ・モーリス=スズキ/市川守弘(著)・北大開示文書研究会(編)『アイヌの権利とは何か――新法・象徴空間・東京五輪と先住民族』(かもがわ出版)などなど。
「長年にわたって、日本とロシアのあいだで議論されている「北方領土問題」。しかし「北方領土」とは誰のためのものなのか。北方領土と呼ばれる島々や、かつては樺太という名だった現サハリンの住民は、二つの巨大国家の交渉を、どのように考えるのだろう。本書は、アイヌを中心に、日本とロシアという国家が先住民族を同化・差別化してきた歴史を詳細に追いながら、辺境という視座から、われわれの「いま」と「今後」を考える。」というもの。
アイヌ問題を主に明治以降の日本という成り上がり国家の都合で作り上げた、観光業向けの紋切り型の像でしか知らなかった自分には、「本書においても、現代思想や近現代史・アイヌ問題など、その緻密な考察と開かれた問題提起は、じつに鮮やかである」というが、十日余りを費やしての通読では本書の表層を漂流したに終わった。
例えば、アイヌが国連の「先住民に関する作業部会」でおこなった最初の提案の冒頭句にしても、アイヌの共同体的アイデンティティは、なによりもまず文化の視点から表現されることが多い」として:
「アイヌ民族は、かつて日本の本州北部、北海道、樺太(サハリン)南部、千島列島に居住し、自然と一体化した独自の宗教、文化を有し、主に狩猟、漁撈、採集によって生活していた北方自然民族なのである。/アイヌとは、アイヌ語で「人間」を意味し、アイヌは日本語とは異なる独自のアイヌ語を使用し、独自の文化を築いてきたのである。」
この説明でもあまりに窮屈な説明に過ぎない。
関連拙稿:「毎日仕事に追われている」(2022/05/31)
← モーム/著『人間のしがらみ(下)』(河合祥一郎/訳 光文社古典新訳文庫)「ミルドレッドへの思いを断ち切ったフィリップに訪れる新しい出会いと思わぬ再会。感情を大きくかき乱す出来事の数々に翻弄されるなか、青年はある一家との交際のなかで人生の尊さをだんだんと感じ始め……。」
モーム作の『人間のしがらみ(下)』を28日(日)読了。『人間の絆』(中野訳版)で二度読んだので、通算すると三度目となる。教養(Bildung自己形成)小説と云いつつ、ゲーテなどと違い、かなり自己を抉っていて、恋愛沙汰も読むのがしんどいほど長々と綴られており、辛気臭いことこの上ない。だが、読ませる。結末が「感情を大きくかき乱す出来事の数々に翻弄されるなか、青年はある一家との交際のなかで人生の尊さをだんだんと感じ始め…」ということで、体裁は辛うじて自己形成小説となっている。明るい結末だが、帳尻合わせの感も漂う。
アセルニー家の長女サリーとの関係では、<男>たる自分を示すが、ミルドレッドとの恋愛沙汰では、<男>たりえない限界を示しているようで、男の正体を知り尽くしている彼女には唾棄すべき奴だということが分かる。主人公のフィリップは究極のところ、いい奴なのである。
<男>なのかどうかは怪しい…そこが物足りなさを感じさせるところだ。
ドストエフスキーの『罪と罰』の理念のために殺人を犯す主人公大学生ラスコーリニコフが、娼婦ソーニャとの間で男女のドロドロに陥らない(あるいは描かれない)点に、<男>なのかどうかが怪しく感じられることと、何処か通底している気がする。偽善の感が否めないのだ。
それでも、傑作であることは否定できない。なんだかんだ言って三回も読んでおいて困惑している自分がいる。困ったことである。
← モーム 作『人間のしがらみ(上)』(河合祥一郎 訳 光文社古典新訳文庫) 「『月と六ペンス』に並ぶサマセット・モームの傑作『人間の絆』をより原題に忠実なタイトルで新訳」
モーム 作の『人間のしがらみ(上)』を24日(日)に読了した。印象めいたことは随時メモって来た。
「幼い時分に両親を失い、叔父に育てられた作者自身の自伝的な教養小説」。さすがのモーム。読ませる。中野好夫訳「人間の絆」として2度は読んだ。久しぶりに手にしたが、とっても新鮮。初めて読んでる気がする。我輩の記憶力の悪さ……じゃなく、訳者である河合氏の巧みな訳のお陰と思いたい。感想はいいよね。
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