隔靴搔痒の読書が続く
← 藤尾慎一郎 著『日本の先史時代 旧石器・縄文・弥生・古墳時代を読みなおす』(中公新書) 「旧石器・縄文・弥生・古墳時代。三万六〇〇〇年に及ぶ先史の時代区分は、(中略)近年、考古学の発展や新資料の発掘に伴い、それぞれの時代の捉え方は大きく塗りかえられている。」
藤尾慎一郎 著の『日本の先史時代 旧石器・縄文・弥生・古墳時代を読みなおす』を3日(日)読了した。
古代史の本を読むのは吾輩の読書の一環。当然ながら先史時代の本も。というより、有史以前の時間の厚みが恐らくは有史の形へも土壌になって影響していると思えるからだ。
研究者らの地道な発掘や研究の積み重ね。その積み重なりが本書の題名のように、『日本の先史時代 旧石器・縄文・弥生・古墳時代を読みなおす』ことに繋がるのだ。
文字資料のないこと。隔靴搔痒の感が否めない。それでも考古資料の発掘の成果は目覚ましい。同時に、それぞれの時代区分を巡る論議も盛んになる。
いつも感じることだが、研究の壁となっているのが、天皇陵の調査研究が制約されていること。発掘調査が遅々として進まないことだ。「宮内庁は「陵墓は皇室の祖先の墓であり、静安と尊厳の保持が最も重要」として、部外者の立ち入りを厳しく制限してきた」のだ。
「仁徳天皇陵、10月に発掘調査へ 世界遺産登録後初めて - 産経ニュース」といったささやかな進展があるものの、もどかしい限りだ。
その仁徳天皇陵だが、「航空写真では優美で堂々とした前方後円墳の姿を見せるが、墳丘が少しずつ縮小していることはあまり知られていない。原因は、墳丘を囲む周濠(しゅうごう)の水による浸食だ。」
「宮内庁は墳丘縁辺部の護岸工事を計画し、平成30年には状況把握のため周濠のすぐ外側の「堤(つつみ)」を発掘、今秋ごろから再び同じ堤を調査する予定。墳丘発掘も視野に入れており、巨大古墳の実態解明につながる壮大なプロジェクトになりそうだ。」
← 内田 樹/寺脇 研/前川喜平 著『教育鼎談 子どもたちの未来のために』(ミツイパブリッシング) 「学びの現場、行政の現場で昭和・平成の教育と向き合った3人が、未来が求める教育を説く」
内田 樹、寺脇 研、前川喜平の3氏による鼎談の書『教育鼎談 子どもたちの未来のために』を2日(土)に読了した。仕事の合間に読む本ではないのだが、読めば読むほど文科省教育の抱える問題の根の深さに憂鬱になった。
現政権の教育行政や現場への政治介入は、まさにその行政の渦中…中枢にいた方たちだからこそ危機感を覚えさえるものだったようだ。教育勅語の問題、紋切り型の教育体制を変えたくない現場の先生方、多様な生き方より東大一直線の狭い視野、でもそのほうが、頭ごなしの政治体制には都合がいいのだろう。
本書は、過日、「前川喜平氏の講演会に行ってき」て、その会場で購入したもの。彼らはマスコミ界、特にテレビやラジオからはパージ状態だろうから、講演会に足を運び、本を買う形でささやかなりとも応援したかった。
寺脇 研、前川喜平の両氏に内田 樹が加わることで論議に幅が出た。そうでなかったら、やや論議に硬直さを感じたかもしれない。
← 凪良ゆう作『流浪の月』(創元文芸文庫)「新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説」
凪良ゆう作の『流浪の月』を今月一日(金)に読了。仕事の合間に読む本にしては重い内容。といって自宅で読むと憂鬱になりそう。純文系で爽快な読後感とは無縁。凪良ゆう作品を読むのは初めて。BL作品で人気の作家という先入観とも無縁。2020年本屋大賞を受賞という噂も仄聞したかどうか。
主人公に限らず登場人物の誰もが(少なくとも)心に傷を持つ。恐らくは親たちも。作者の目線は若い人たちに焦点が向いている。誰もが癒されない、誰にも理解されないと思っている。大人には分かるはずがない。周囲の大人の善意も素直には到底、信じられないし受け入れられない。拒否さえする。
主人公の少女の前にある日、決して白馬の王子様ではないはずの、無垢な心を持つかのような若者が登場する。少女を受け入れる…かのような振る舞い。それは世間からは誘拐以外の何物でもない行為なのだが。
その彼氏にしても、幼いころからの誰にも言えない傷…悩みを抱えて生きてきた。孤独にしか生きられない…。
分かり合えることはありえないことなのか。善意はありえないことなのか。そんな無邪気な問いはお門違いなのだろう。
実は大人たちこそ、抱えてきた数々の傷が心身の内に澱のように淀んで生きている。汚れた大人…。分かるからこそ子供らへ手を差し伸べる。でも、その手は皺だらけで傷だらけで節くれだっていて、醜いのだ。そんなお前に柔らかな心の何が分かる?!
齟齬は永遠に続く。齟齬は肥大する。齟齬は捻じれのままに誰も彼もが深い夜空の星となって永遠の孤独を煌めかせるしかないのだろうか。
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