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2022/01/22

人毛痒痒疎にして密なり

Wood_20220122164401 ← ローランド・エノス著『「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る』(水谷淳訳 NHK出版)「類人猿の樹上の巣から、交易に活用された木舟、多様な建築技術、エネルギー源としての木炭まで、つぶさに語られる木の驚くべき汎用性を通して、今まで見えていなかった新しい歴史の姿が現れる」

 腰痛の養生で、湿布を貼ったまま、家に籠っている。読書三昧したいが、集中力までが失われているようだ。
 尤も部屋の寒さがきついことも、集中力どころか普通に過ごすのもきつくさせている。灯油ストーブは使わない。灯油の買い出しや給油作業が難儀だし、火の不始末が怖い。エアコンも不調。音が煩い。電気ストーブだけが暖房ツール。静かなのが嬉しい。但し、厚着はしてても、毛布は必須である。

体毛の話 あるいは 人毛痒痒疎にして密なり
 ローランド・エノス著『「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る』を読み続けている。人類史について、我輩には目新しい知見が得られ、勉強になっている。すでに幾つかのことはメモって来た

 ここでは、ヒトが体毛を喪失乃至薄くなったことの理由について、もう少し書き足してみたい。

 人類の祖先が直立歩行を始めたのは、ナックルウオークからの進化だという説が過去、まことしやかに唱えられてきた。が、これは既に否定されているという。祖先は木の上で移動したり暮らしたりする中で、直立歩行のための骨格がほぼ出来上がっていたとされている。
 さて、体毛の話だ。

 人類の祖先が何故体毛を失ったのか。いろいろ説はあるようだが、一番説として有力だったのが、所謂狩猟仮説だ。
なぜヒトだけ無毛になったのか - 日経サイエンス」によると、「ヒトの祖先でのライフスタイルの変化がある。森から草原に出たヒトの祖先は,食べ物を求めて長距離を歩いたり走ったりするようになった。活発に動き回っても体温が上がりすぎないための仕組みが必要だった」というもの。
 つまり、「人類の進化が狩猟行動によって影響を受け他の類人猿とヒトに異なる選択圧を与えた、とする、古人類学における仮説」のことである(「狩猟仮説 - Wikipedia」など参照)。
 体毛を失ったことについては、アクア説(水生類人猿説)などもあり、面白くはある。「ヒトがチンパンジー等の類人猿と共通の祖先から進化する過程で、半水生活に一時期適応することによって直立二足歩行、薄い体毛、厚い皮下脂肪、意識的に呼吸をコントロールする能力など、チンパンジーやゴリラなどの他の霊長類には見られない特徴を獲得した、とする仮説」だが、学説としては否定的に受け止められている。

  その他、体毛喪失については「幼形成熟(ネオテニー)」もあるが、ここでは省略する:「「幼形成熟ネオテニーとヒト」   尾本 惠市(総合研究大学院大学シニア上級研究員 東京大学名誉教授)

 体毛の喪失についての狩猟仮説については、そもそも長距離を移動したら大量の汗を掻き、ヒトだって脱水症状になる。まさか大量の水を持ち運べるわけもなく、至る所に水がそうそう都合よくあるはずもない。
 何より、太陽からの放射エネルギーである。これがバカにならない。体毛があれば、確かに暑苦しいが、それ以上に太陽光を長時間浴びることにより受けるエネルギーが過大で危険なのである。砂漠を駱駝に乗って移動する人も、ローブを羽織っている。裸ではない。体毛の断熱効果は絶大なのである。
 体毛を失って長距離を移動するなら、頭髪も失ったほうが効果が上がるはずだ。が、決して失うことはなかった。頭頂部は濃い毛で覆われたままである。それは頭、つまり脳を守るために頭髪は必須なのである。

 狩猟仮説の難点は他にもある。狩りに行くのは男たちで、彼らが長距離を移動するため、汗を流しやすくするため、体毛を失ったとして、では、女たちはどうなのか。狩りでの長距離移動はなく、ホームに留まってあれこれするのだから、体毛を失う必然性はない。男は毛が薄く、女は毛深いままのはずなのである。

 僅か2年前(再放送は昨年)に放送された「「“体毛” 毛を捨てたサル」 - ヒューマニエンス 40億年のたくらみ - NHK」でも、狩猟仮説が堂々と唱えられ、我輩もそんなものかと受け止めていただけに、本書に紹介されていた近年の研究成果はカルチャーショックだった。

 狩猟仮説が否定されたとして、人類の祖先は何故、体毛を失ったのか。
 近年有力視されているのは、 ニカラグアの博物学者トーマス・ベルトが唱える、寄生虫仮説だ。詳しくは書かないが、「ヒトはノミやシラミなどの外部寄生虫を減らすために体毛を失った」とするもの。
 初期の人類は、半定住式の宿営地で集団で暮らした。ヒトに限らず動物は寄生虫に苦しめられてきた。寄生虫は、感染症の病原体の運び手でもある。人類の祖先は、体毛を薄くすることで、手先の器用さもあって、ノミやシラミを発見したり退治したりしやすくなった。女性が男性より宿営地に長く居るから、体毛もより薄くなりがちだった。毛づくろいにも身が入るというもの。(「霊長類とシラミの関係 座馬耕一郎」など参照。
 ただこの説だと、腋毛や陰毛が何故残ったのかは釈然としない。セックスアピール? まだ、探求の余地はありそうである。

関連拙稿:「はだかの起源 言語の起源」(2016/11/12)
ヒトはいかにして人となったか 」(2007-02-17)
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『日本人の起源―古人骨からルーツを探る』感想」( 2006-02-15 )
はだかの起原、海の惨劇 」(2006-02-06 )
居眠りには読書だ…『日本人の起源―古人骨からルーツを探る』 」(2016-11-12)
非関連拙稿:「体毛忌避という悪夢」(2017/06/05)
ヌードと裸 それとも毛嫌いされる毛」(2013/06/15)

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