雨の中の営業
← 『源氏物語 A・ウェイリー版第2巻』(著者:紫式部 英訳:アーサー・ウェイリー 日本語訳:毬矢まりえ+森山恵姉妹訳 エッセイ:瀬戸内寂聴 装幀:松田行正+杉本聖士 左右社)「巻末に瀬戸内寂聴さんのエッセイを収録」
昨夕からの雨。一気に寒くなり、季節外れの暖かさに慣れた身には氷雨の感すらあった。雨の中の仕事は辛い。店に案内し、お客さんの出てくるのを傘を差しながらひたすら待つ。町に活気が戻り、街角にはタクシーを待つ人も多い。そんな中、待つために時間が空費され、客がドンドン手のひらから零れていく。次に待つ客に迷惑がかかる。あるいは、タクシーが塞がって折角の配車依頼を断る…。
そもそもタクシー乗務員を雨の中、無為に待たせていることへの配慮の気持ちは働かないのだろうか、不思議だ。
事務所(会社か配車室)の弱気。無線で当該の店に着き、「お待たせしました」と案内したなら、案内した時点からせめて五分以内にメーターを入れる程度のルールはあっていいものと思う。そうすることが、タクシーの回転の効率にも、待たせている潜在的なお客さんのためにも資するのは明らかではないか。
『源氏物語 A・ウェイリー版第2巻』を昨日(16日)、読了。見掛けの大部さに圧倒されそうだが、読みやすさ理解のしやすさで想像以上に読み進んでいく。
第二巻を読んでいる中で、「分かりやすい。物語の全貌や、特に人間関係が掴みやすい。が、原文の味わいじゃないが、十二単のように錯綜した、微妙な表現の妙味が薄らいでいると感じる。何処かストーリーを追っているような。翻訳者は作家じゃなのだろう。訳者は二人で評論家・俳人と詩人のコンビらしい。物語に仕立てる技術が足りないのか、英語の原文がそうなのだから仕方ないのか。割り切って訳している結果なのかもしれない。あるいは、つい先日、中西進氏の白楽天絡みの本を読んだから、猶更感じるのかもしれない」などとメモった。几帳などの用語のカタカナ表記や尊敬語などの略、語調の何処か友達感覚などにある種の違和感は第二巻を読了した今も常に。分かりやすさの代償なのだろう。ふとハーレクイーン物に接しているような錯覚すら。いろんな現代語訳の中の一つの有力な訳として歓迎すべきだろう。早速、第三巻へ。
← ミア・カンキマキ著『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』(末延 弘子(翻訳) 草思社)「事にも人生にもうんざりしたアラフォーシングルのフィンランド人「私」は、長期休暇制度を使って日本へ旅立つ。目的は「清少納言を研究する」ため――」
ミア・カンキマキ著の『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』を一昨日から読み始めている。自宅で、あるいは車に持ち込んで。
真っ先に感じたのは、内容とは直接関係しないが、フィンランドの文化政策の手厚さ! 日本とは比べものにならないこと。
政府だけじゃなく、企業の福祉も充実。日本は少なくとも先進国の中の最貧国になってしまっている。著者は日本の物価は高いと思っているようだが、それは間違い。25年以上の、世界でも稀なデフレの連続で、賃金も物価も低い。だから、コロナ禍前までは観光客も急増してたのだ。お手頃な値段の日本。悲しい現実。
それにしても、日本語も読めない喋れない、聴き取れないのに、清少納言に逢いに京都へ向かうとは! 書き手は旅に出た時点でアラフォーの独身女性。呼びかけも、「セイ」なのが印象的。そこだけは、ウェイリー版源氏物語を読んでいる際の、カタカナ語の乱舞などから来る印象と何処か似ている。皇室と貴族とか雅とはには無頓着でありえる特権なのだろうか。
← 安部 公房 作『けものたちは故郷をめざす』(岩波文庫)「満州国崩壊の混乱の中、故郷・日本をめざす少年の冒険譚。安部文学の初期代表作」(解説=リービ英雄)。
安部公房 作の『けものたちは故郷をめざす』を今朝未明、車中にて読了した。「満州国崩壊の混乱の中、故郷・日本をめざす少年の冒険譚」という内容を読書メーターで知り、急遽入手し読んだ。
公房作品は、『砂の女』『箱男』『他人の顔』などと学生時代、立て続けに読んだ。大学の授業で『第四間氷期』の英訳本をテキストとして読んだので、当然、日本語訳ではなく、原書(!)をも読んだわけである。
公房のいい読者ではないが、少しは読んできた。が、やはり、『砂の女』のやや形而上的な世界の印象があまりに強い。だからか、本作品は、満州国崩壊の混乱の中、突然投げ出された少年の、謎の人物との必至の脱出劇というリアルな物語であるにも関わらず、何処かまさに何処までも砂の中を藻掻く、いい意味での抽象性を感じた。恐らく(ネタバレになるが)物語の結末で、少年が日本への帰国の船にやっと乗船できたのに、なぜか日本という幻の故国を目の前に上陸が叶わないという不条理な場面になっていることに起因するのかもしれない。同時に、肉弾戦、飢餓、茫漠たる大地、水あるいはまだ見ぬ日本への渇望が時にえげつないほどに描かれているにも関わらずそういった読後感を抱いたのは、若いころの先入観に引き摺られ過ぎなのかもしれない。公房は本作品は地味すぎるから英語に翻訳する必要はないと、解説のリービ・英雄に語ったという。が、崩壊した満州国からの文字通り地べたを這うような脱出劇を細部描写に徹して描くことで、逆にある種の普遍性を得ているのでは、つまり、世界性をも獲得し得ているのではと考えるのだが、どうだろう。
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