忘れられた町を走る
← 武村 政春 著『ウイルスはささやく これからの世界を生きるための新ウイルス論』(春秋社)「最新の知見に基づきあらためて「ウイルスとは何か」を問うとともに、戦略や生き様などウイルス的本質を掬いあげる。」
今日から世間的にはゴールデンウイーク。吾輩的には連休中の大半はしごと。昨夜も珍しく忙しかった。連休前ということで世間の動きも慌ただしかったということか。仕事の合間の楽しみに読む本も、数十頁進んだだけだった。嬉しい悲鳴ということか。ただ、夜九時を過ぎると、雨だったこともあってか、町は閑散。忘れられた町のような雰囲気。
武村 政春 著の『ウイルスはささやく これからの世界を生きるための新ウイルス論』を昨日 読了した。本作は、本年の二月頃に書かれた。まさにコロナ禍に見舞われて一年経つのに終息の見込みの立たない中での執筆。ただ、本書では、「最新の知見に基づきあらためて「ウイルスとは何か」を問う」もので、大所高所に立っての論考である。
この本で一番興味深かったのは、ヴァイロセル仮説だった。ミミウイルスという巨大ウイルスに感染した(アカント)アメーバは、そのリボゾームの大半をウイルスのタンパク質合成のため奪われ、自分のタンパク質を合成できなくなってしまう。細胞は細胞としての意味を成さず、細胞核も出番を失ってしまう。こうした「ほとんどすべての機能をウイルスに乗っ取られてしまった状態の細胞をヴァイロセルと言う。
「この細胞の中では、ウイルスは完全に「生きている」ことになる。生きて、元気にタンパク質を合成し、自らのDNAを複製し、子供を増やしている。ウイルスの生活環の中で、ウイルスがこれほど活き活きしている状態はないのではと思えるほどだ。」
ヴァイロセル仮説という考え方では、ヴァイロセルこそがウイルスのほんとうの姿であると捉える。」我々が「ウイルスといわれてイメージするあの「ウイルス粒子」は、ウイルスのほんとうの姿ではなく、ウイルスが増殖するために作り出した、僕たちでいうところの「生殖細胞」なのである。」
吾輩のようにウイルス学の門外漢に分かりやすい譬えをすると、我々が通常イメージする粒子状の生命ならざるウイルスの姿は、植物で云う花粉のようなものかもしれない。花粉が生命なのかどうか別にして、植物が植物らしく輝くのは地に根付き根を張り茎をのばし葉を茂らせ…という姿あろう。ウイルスも、細胞の外にあっては、あくまで花粉状態であり、細胞の中に侵入し、つまり感染してこそ初めて活躍の場を見出して<生きている>ということなのかもしれない。
そのほか、「地球上に生物が生まれて以来、さまざまなターニングポイントで大きく形を変えて進化してきた生物の歴史の中で、ウイルスはその都度、大きな役割を果たしてきたことがわかってきたし、いまの僕たちヒトのゲノムの中に、ウイルスがかつて何度となく感染してきたその歴史が、ウイルスの遺伝子の塩基配列の痕跡として刻まれてきていることもわかってきた。」
それ以上に、肝に銘じなければならないのは、我々は、「身の回りに存在するバクテリアのことも知らないし、原生生物のこともわからない。ましてや、それよりももっと小さな存在であるウイルスのことなど、知るわけがない」という、本書の「おわりに」での著者の指摘だろう。いろいろ教えられる書だった。
いずれにしろ、バクテリアにしろウイルスにしろ、我々多細胞生命体より遥かに昔から生き延びてきたのだ。サバイバルの技術は人間の想像を遥かに超えるものがある…はず。自然の前では謙虚であらねば。
← 柳 美里 著『JR高田馬場駅戸山口』(河出文庫)「居場所のない「一人の女」に寄り添う傑作」だとか。
相変わらず、柳 美里 作の『JR高田馬場駅戸山口』を読んでいる。物語の中で、新宿区の戸山で多数の人骨が見付かり、やがて731部隊との関連が疑われる事態に……といった場面が出てくる。
「新宿に謎の人骨100体 731部隊との関連なお調査:朝日新聞デジタル」によると、「30年前の1989年7月22日、東京都新宿区の厚生省(当時)戸山研究庁舎建設現場で多数の人骨が見つかった。細菌戦を研究した旧陸軍の731部隊と関係が深い防疫研究室があった場所だが、関連は不明なままだ。真相解明を求める市民団体は発見30年に合わせ、展示会や関係施設跡をめぐるフィールドワークを開く」などと。
近年も地道に探求されているようだ。このニュースの1989年頃、我輩は東京在住だった。住みだした当初は中野区と新宿区の境い目辺りに居住。が、アルバイト先が大久保と歌舞伎町の間辺り。
会社近くに住みたくて新宿駅に近い都営住宅(団地)に何度も応募。落選を重ね、10回落選したら優先的に抽選されると知り、落選の葉書を集めていた。狙っていた都営住宅が戸山にもあった。結局は10回も落選する前に、港区にある別の会社に就職。住まいも港区の団地へ。万が一 ラッキーにも公営の戸山住宅に住んでたら、事件を間近なものとして感じてたかも、なんて当時 港区に住み暮らしながら思ったものだ。
本作の舞台はJR高田馬場駅。高田馬場には幾つか思い出がある。懐かしい。時代は違うが、高田馬場という地名(と柳氏の名)で本書を衝動的に手にした。
さすがに柳氏の作品で、斬新な表現スタイル。本作が書かれたのが東日本大震災発生から間もないということで、撒き散らされた放射能に東京に住む、特に子育て中のお母さん方が神経をとがらせていたことなども風俗として描かれている。あるいは食品添加物に公園の砂場の犬猫の糞尿などによる汚染にも敏感だったりする。
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