ル・クレジオからフォークナーへ
← ル・クレジオ作『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』(豊崎 光一/佐藤 領時訳 集英社文庫 1995/6/20)「子どもたちのいる風景をみずみずしい感性で描く素敵な物語8編」
昨夜来の雨は強風と相俟って、不安を掻き立てるものだった。日中も買い物へ車でだって外出する意欲を萎えさせた。午後遅めには雨も風も止んだが、庭先を軽く見て回るだけで、終日家に籠ってしまった。その分、居眠りと読書に専念。
本夕からは、フォークナーの念願の『響きと怒り』を読み出した。若いころ、手元にあって、何度となく読もうとしたが、とうとう冒頭の数頁で頓挫したまま。本はいつしか行方知れずに。過日、古書店で出会ったので、今度こそ読むつもりで買っておいたのだ。ル・クレジオも読み終えたし、早速読み出した。
ル・クレジオ作の『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』を本日午後読了。大半を仕事の合間に、残り70頁余りを自宅で。ル・クレジオの本はこれで6冊目か7冊目。本書、読み出して気が付いたのだが、15年ほど前、図書館から借り出して読んでいた。当時は、本を買うなんて夢のまた夢だった。
本書は比較的若い時期の短編集。内容案内には、「子どもたちのいる風景をみずみずしい感性で描く素敵な物語」云々と。訳者によると、これ以上ないほど「言語は極めて平明」という。実際、「物質的恍惚」は別格としても、「調書」や「大洪水」のような込み入った表現は見当たらない。それは主人公が子供ということもあろう。子供の誰もが持つだろう好きな自然や社会の居場所は、大人が忘れ捨ててしまった澄明なで、肩書など無縁で意味をなさない世界なのであり、表現もそれに見合うものであるべきだというル・クレジオの主張もあるのか。
この短編集の主人公たちの典型は、冒頭の一作である「モンド」にみられる。モンド少年は、身寄りのない不思議な少年。彼は界隈で出会う誰とも気軽に挨拶するし、語りかけられる。別に意図的にじゃなく、ごく自然にそう振る舞えるのである。ある意味、我輩とは全くベクトルの違う感性だ。彼の周りには、爽やかな風が吹き、青い空が広がり、大地は好奇心を掻き立てる変幻に満ちており、その先には海が広がっている。豊穣なる世界。
吾輩には世界は、身近だろうと何処か遠い界隈だろうと、否、寝床の中に籠っていようと、そこの空気は粘っている。手足の動きは粘度の高い透明な液体で充満している。辛うじて息はできるが、敢えて息を吐けると常時確認しないといけないような危機感と緊張感が漂う。四囲の視線が体中に突き刺さっている。眼差しの切っ先は顔面のど真ん中を突き刺して、心は串刺しなのである。ル・クレジオの描く世界は、吾輩のどんよりした世界とは真逆だからこそ、そう、まさに虚構の世界だからこそ読める。虚構でしかありえない世界なのだ。そんな野暮極まる奴が読むなんて、さすがのル・クレジオも想像だにできなかったろう。
缶酎ハイのCMの「鏡月」が気になる(「新商品「鏡月焼酎ハイ」CM 松本まりかが『はじめてのチュウ』で歌声を披露 | AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議」参照)。素養のなさを露呈: 「月の鏡(つきのかがみ)とは。意味や解説、 類語。1 晴れわたった空にかかる満月。形を鏡と見立てた語。《季 秋》2 月を映した池の水面にたとえた。」(「月の鏡(つきのかがみ)の意味 - goo国語辞書」参照)
「最初の鏡は、水溜りの水面に自らの姿形などを映す水鏡であったと考えられる」。やはり、最初のナルシストは、水鏡に映る像だったんだな。
自宅では、I.ヴェリコフスキー著の『衝突する宇宙』(鈴木 敬信:訳 法政大学出版局)を迷いながら読み続けている。
筆者は頻りに紀元前1500年頃の尋常ならぬ天変地異を、古文書や伝説 言い伝え 遺跡の壁面などの異常現象を示すだろう謎めいた文字記録(?)などの膨大な傍証(?)で説得力を持たせようとする。が、古文書などが歴史学的には怪しいかあやふや。旧約聖書や古事記までが参照されている。紀元前1500年までは、天の惑星は水火木土だけで、金星は認識されてなかった。巨大な彗星の影響で金星が突如 加わったとか。うーん、驚くべき説だ。
まとも(だと自負するような)科学者は本書の科学的な記述はアカンと言い、まとも(だと自負するような)歴史家は、歴史面の記述はアカンという。ようやく、半ばまで読んできたが、我慢して最後まで読みきれるか 自信がない。
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