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2021/03/23

古書を楽しむ日々

Seimei ← シュレーディンガー (著)『生命とは何か―物理的にみた生細胞』 ( 岡 小天 (翻訳), 鎮目 恭夫 (翻訳)岩波文庫) 「著者が追究した生命の本質―分子生物学の生みの親となった20世紀の名著。生物の現象ことに遺伝のしくみと染色体行動における物質の構造と法則を物理学と化学で説明し、生物におけるその意義を究明する。」

 古書を読む機会が増えている。古書店で時間をかけて隅から隅まで見て回る。懐かしい本もあれば、読み逃した本が見つかったりする。あるいは、こんな本が出ていたのかという嬉しい驚き。十数冊買い求める。それでも数千円。コスパは最高。今読んでいる四冊はいずれも古書。読書を楽しんでいる。…それでも、新刊の居並ぶ書店で本を物色したい。

 シュレーディンガー 著の『生命とは何か―物理的にみた生細胞』を22日に読了した。昔、新書版で読んだ。『精神と物質』に古書店で遭遇したこともあって、両方を読むことにした。まずは本書。
 分子生物学は、1953年にワトソンとクリックが遺伝物質DNAの分子構造模型を提出したことが決定的な転機となり生まれた。本書はその十年前に出た。古い。が、それでも読む価値があるのは、あとがきの鎮目 恭夫氏の言葉を借りると、「量子力学の誕生以前に主にアインシュタインとプランクによって明示された自然界の量子的構造にもとづく原子や分子の構造の安定性が、生物の遺伝物質の高度の安定性を可能にしている決定的な要因であることを指摘することによって、本書の十年後に確立された分子遺伝学への基本路線を示した」からである。同じく訳者の岡氏が指摘しているように、本書は戦後の混乱期の物理学者、生物学者を核酸の生物物理の研究に向かわせるのに決定的な影響を与えた。クリックやワトソンらの研究につながったのである。分子生物学の黎明期…あるいは夜明け前に示された洞察は振り返れば功罪があるのは当然として、科学者の真摯な試みということで、読む値打ちがあると感じた。但し欧米の科学者は科学の限界を覚えると、ウパニシャッド哲学など東洋に救いの可能性を見出そうとする。知らない遠い世界に光を求める気持ち、分からないでもないが、やや違和感もある。

 

Rein_20210324212601 ← R.D.レイン著『レイン わが半生 精神医学への道』( 中村 保男 訳 , 中井 久夫 解説 岩波現代文庫)「人間への果てしない疑問を抱き,分裂病の実存的研究を通して新しい対人関係論を拓いた精神科医の自伝」「少年期に抱いた人間への果しない疑問.やがて陸軍病院や女子病棟で閉ざされた心とふれあった青年医師の存在への問いは,分裂病の実存研究『ひき裂かれた自己』に結晶する」

 R.D.レイン著の『レイン わが半生 精神医学への道』を読了した。学生時代、分裂病の実存研究『ひき裂かれた自己』に圧倒された。まさに自分のことを痛烈に抉っているようで、その精神の奈落から這い上がれないような危機感さえ覚えたものだった。精神医学も科学の一分野のはずである。科学的データと分析と、ロボトミー手術を典型とする外科的手法、そして薬物の投与、拘禁、医者を含めた他者との遮断。が、ことは心の問題のはず。精神の病(統合失調症)は神経など器質的な異常に終始するものなのか。多くの(それでも一部か)若き精神科医は治療現場に深甚な疑問に苦しめられる。(今は分からないが)レインの当時は、医者の中で一番自殺者が多かったという。レインらの苦悩。現今の精神医学はどれほど当時の隘路から抜け出せているのだろう。若き精神医学者のドキュメントとして読み応えたっぷりである。本書が刊行されて30年が経過している。現代の精神医学の知見を知らねばと思う。

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