汗の出ない入浴
← 鈴木堅弘/著『とんでも春画―妖怪・幽霊・けものたち』(とんぼの本 新潮社)「国貞や国芳による性器頭の妖怪春画から、思わずゾッとする女幽霊との交合図、そして北斎の傑作「蛸と海女」まで。江戸の想像力の極致と呼ぶべき、〈人ならざるもの〉との交わりを描いた計130余点を、気鋭研究者が読み解く」
午前中はいつ降り出すか知れないような空。昼頃、慌ててスーパーへ自転車で。クリーニングを引き取り、買い物を袋に2つ。荷物いっぱいで空を気にしながら帰りを急いだ。
降り出したのは午後の三時頃だったか。今日は庭仕事はパス。昨日、これでもかというくらいやったからいいんだ。あとは、居眠りと洗濯と読書を少々。とんでも幽霊本を読んだり、漱石の文学論に難渋したり、久々に芭蕉の本を手にしたり、それなりに読書は充実している……が、やはり、新刊も読みたいな。
夕方、自宅で風呂に入った。シャワーのお湯がちょろちょろだが出るので、シャワーを湯船に突っ込んでお湯……ぬるま湯を溜めて入浴擬き。汗が出ない入浴だったが、ま、仕方がないか。
鈴木堅弘著の『とんでも春画―妖怪・幽霊・けものたち』を読了した。できれば夏に読みたかったが、今年は梅雨明けが遅れて7月下旬も半ばが過ぎて夏は見えない。
透徹した人間観。口とオ⚪ンコは一体。珍宝は突っ込んでいるようであり、吸い付かれ吸い込まれ吸い付くされる。阿弥陀様(釈迦)涅槃図がいい。男への執念と怨みとに狂った女(全身オ⚪ンコ)が蚊帳の中で朝立ちする男に襲いかかる図などは幽霊(妖怪)画の極致。春画好きな我輩が初めて観る絵が多く、頁を捲る手か焦るようであり、滞るようでもある。春画だけに、周到に観て楽しんだ。
生物学の知見だと、大概の生物は子供を産み自立するまでがすべて。役目を終えると、他の動物に時にはメスや子供に喰われてしまう。が、人間はどこまでも生き延びようとする。その分、業も深い。六道の闇夜は際限なく続く。恐らく地獄(か極楽か分からないが)へ行っても業は燻りつづけるのだろう。その象徴が肉欲なのだろう。
井本農一/村松友次/土田ヒロミ著の『奥の細道を歩く』(とんぼの本 新潮社)を読み始めた。文章もいいが、写真もいい。
1989年の本。「奥の細道」に接するのは何度めか分からないが、本書を手にするのは3度め。
芭蕉の俳諧は我輩には罪な存在。詩心の薄い我輩に俳句の魅力を覚えさせ、我輩にも俳句を嗜む心があり、詩心があると勘違いさせたのだから。真相はというと、鈍感な我輩の感性をも瞬時とはいえ覚醒させる鋭さが芭蕉の句にはあるということに他ならない。実際、2004年に始めた我がブログは、当初のテーマはなんと「季語随筆」だった(句作も続けた)。数年続けて尻すぼみに。芭蕉は凄い。
ま、旅行には行けそうにないので、せめて本書でその気分を。
← 『スティーヴンソン ポケットマスターピース 08』 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)「スティーヴンソンの文は物語内の現実を動かし、変容・変貌させる。ジーキル博士は自ら調合した薬液を服んでハイドに変貌し、又薬液を服んでジーキルに戻るのだが、ついに永遠にハイドに変容してしまう。それは薬液によってではなく、文の力即ち文体によって引き起こされる……」
『スティーヴンソン ポケットマスターピース 08』を読了した。解説も含め800頁以上。長いと言えば長いが、中身が充実していて読み急ぐ気はしなかった。収録作品は、「ジーキル博士とハイド氏/自殺クラブ/噓の顚末/ある古謡/死体泥棒/メリー・メン/声の島/ファレサーの浜/寓話(抄)/驢馬との旅」。恥ずかしながら、最後の「驢馬との旅は紀行文なのに、小説だと思い込んで読んでいた。最後まで気が付かない吾輩。なんて独創的な小説なんだ。地名はリアルなのか、架空なのか……どう受け止めていいかわからないままに。
題名の驢馬との旅は、内容を的確以上に表現している。終始驢馬に翻弄されている。旅が終わって驢馬を手放す際には、この世話にはなったが厄介モノだったはずの驢馬との別れに深い感懐を筆者は覚える。驢馬は会えない女を象徴しているのではないかと思った。どの作品も印象深いが、このノンフィクションが一番面白かったし、スティーブンソンの筆力を感じた。
スティーブンソンは、かのヘンリー・ジェイムズとも長く交流を持った本格的な作家。中島敦が伝記に近い小説『光と風と夢』をささげた作家。ボルヘスやナボコフが19世紀を代表するとして採り上げた作家。ゴシック小説の嚆矢。ロンドンゴシック小説として、ディケンズやワイルド、ドイルと並ぶ重要な作家。分身テーマの代表的な小説を書いた作家。「ジーキル…」や「宝島」などがあまりに人気を読んだので、大人の鑑賞に耐える書き手とは見なされなくなった。が、再評価必至の作家である。
ちなみに本書は文献案内も充実している。
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