片雲の風に誘はれて
← ついで向かったのは、布勢の円山。約20メートルの小高い山頂には、布勢神社がある。布勢氏の祖とされる、北陸鎮撫に派遣された大彦命(おおびこのみこと)をまつる。大伴家持の舘があったとの逸話もあった山頂だが、悲しいことに神社も山頂に至る坂道も石段も荒れている。嘗ては周囲に十二町潟を中心とした水郷地帯が広がり、万葉故地として多くの文人が訪れた。1802年には大伴家持卿遊覧之地の石碑が建てられ、1900年には家持千百年祭があり、1985年の千二百年祭には御影社が新築された。御影社とは、大伴家持をまつる社(やしろ)。
← 御影社の前には、家持が橘諸兄(もろえ)の使者田辺福麻呂(さきまろ)を迎え、翌日の遊覧を思い詠んだ「明日の日の布勢の浦廻(うらみ)の藤波に けだし来鳴かずちらしてむかも」の万葉歌碑も建てられた。2000年には、何もしなかったのかな。確かに嘗ての水郷は埋め立てられ水田や工場などが出来、何より山頂には樹木が生い茂り雑草も蔓延っていて、四囲を見渡すことはできないのでは、眺めが良かった昔を偲ぶのは難しそうだ。ただ、ホ~ホケキョ~の鳴き声のかまびすしさが耳に心に痛かった。
先日、襲撃され警察官らが銃撃された交番の前を通りかかった。夜。新しい交番。が、交番の在処を示す赤い明かりが車道を走る車からは見えづらい。明かりが弱い? 気付かれないよう、明かりを弱くしてる? もう一度、夜、通って確かめてみる。
瞬間湯沸し器のお湯シャワーが苦痛でなくなってきた。暖房は一切使わない台所。小さなタライにお湯を溜めつつ髪を洗う。背中に僅かにお湯シャワーの飛沫が飛び散り垂れる、あっという間に冷えるその一瞬の温もりが嬉しい。次第に浴室でのシャワーも苦でなくなりつつある。入浴は……まだ先かな。
← さらに日本海側で最大の前方後方墳である柳田布尾山古墳を見学に。1998年に発見調査された。全長107.5m。古墳時代前期(4世紀頃)の築造。埋葬品は盗掘され副葬品も確認されなかった。布勢の円山もだが、この古墳もこだかい丘の上にあり、海が見渡せる。古墳は二上山を向いている。祭祀も神聖なる山に向かって成されたのだろう。
危機になると、国……政治家や役人……国民性が如実にあらわになる。切羽詰まらないと動かない。動いても、役所の窓口は旧態依然。書類書類書類書類。あんたらに閉口して困窮者が諦めるのを座視してる?
思うのは、新型インフルやSARS、マーズの際、あれほど騒がれたのに、国が何も学んでなかったこと。対岸の火事だったの。他人事だったんだ。マスクなどを一年ぶん備蓄なんて発想、欠片もなかった? 感染症ウイルスの蔓延に備えて、医療体制をどうすべきか、政治家も役人も考えなかった? あんたら、一体、何のために存在してるの? 待遇が保証されてるのは、いざって言うときの為じゃないの?
一ヶ月遅れの緊急事態宣言。自粛要請。つまりは、自己責任で。苦しむのは、あんたの勝手でしょって、嘲笑っているのか。自粛ぶりは、国民同士、近所同士で監視。所得が減った世帯に 30万円って、やっぱり絵に描いた餅。絵空事でいいなら、我輩にだって描ける。そりゃ自粛はするよ。言われなくたって。自己防衛だもの。
← 柳田布尾山古墳より二上山方面を望む。二上山周辺には歴史を物語る寺社が多い。車で駆け回っても一日では無理だし、勿体ない。氷見市には観光資源が豊かだ。ちなみに我輩は、バイクで巡った。ツーリングは今年二回目。
それはとある連絡船でのこと。客室は観光シーズンでなかったからか疎ら。俺がポツンと座って出航を待っていた。テントなどを持っての一人旅。丸い小窓から薄暗くなってきた海を眺めていた。
すると出発間際に一人の女性が俺の真ん前の席に着いた。薄手のコートを羽織り、バッグ一つの身軽な格好。座る直前、俺に挨拶するでもないのに、横顔を見せびらかすように前の席へ。一瞬、俺の隣に腰掛けるのかと錯覚した。
背凭れで彼女の姿はまるで見えないが、チラッと見かけた彼女の横顔は俺の脳裏に刻まれて、小窓のガラスに映り込んでいた。背凭れの端っこから彼女の肩までの髪が僅かに覗いてみえる。
うぶな俺はただ女の横顔の残像を残り香のように味わうだけだった。女のシルエットには、何か柔らかいような、接触を拒むことはないとでも言っているような雰囲気さえ嗅ぎ取っていた。
切迫するような、予感めいたむず痒さを覚えだした、その時だった。突然、降って湧いたような影がよぎった。いい男を絵に描いたような30過ぎの男が女の脇に立った。「ここにかけてもよろしいですか?」
女は、一瞬、男のほうを見たが、俳優で言えば高城丈二のような、眉も凛々しい、歯の美しい男の、さりげない申し出を拒む発想は浮かぶはずもなかった。
二人は何を話していたのか、知るよしもない。静かな会話の時間が憎らしいほど優雅に流れていた。俺は木偶の坊で、奴はプレイボーイ。住む世界が違う……そう思うしかなかった。
そろそろ到着するかという頃、男は静かに立つと、爽やか過ぎる笑顔を彼女にプレゼントして去った。女は髪を幾度もかきあげている。俺は船酔いすることすら忘れていた。
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