入院中に読んだ本
← ダシール・ハメット作『マルタの鷹〔改訳決定版〕』 (小鷹信光訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)「ハンフリー・ボガート主演映画で知られる、ハードボイルド小説の不朽の名作」
ダシール・ハメット作の『マルタの鷹〔改訳決定版〕』を病床にて読了した。読み止しだったので、敢えて病床に持ち込んだ。
世評高いが未読だった。私立探偵もの。ハードボイルドの典型……元祖か。とことん己れの流儀を押し通す。その頑固さゆえに刑事や悪漢らも一目を置く。優しくなければ……と嘯くチャンドラーとは好対照。この主人公は女性(美女限定か)が好きなのは好きなのだが、たとえ愛する美女であっても、自分を騙したり嘘をつく奴は(恋情を殺しても)切り捨てる。この点は優しさ至上の現代にはそぐわないか。逆に云えば、こうでないとという熱烈なファンが好くなからぬ所以なのかな。
← マイケル・オンダーチェ作『戦下の淡き光』(田栗美奈子訳 「1945年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手に僕らをゆだねて姿を消した――母の秘密を追い、政府機関の任務に就くナサニエル。母たちはどこで何をしていたのか。周囲を取り巻く謎の人物と不穏な空気の陰に何があったのか。人生を賭して、彼は探る。あまりにもスリリングであまりにも美しい長編小説」
マイケル・オンダーチェ作の『戦下の淡き光』をやはり、病床にて読了した。
入院する日の午前中に読了したかったが、断念。病院に持ち込むことに。単行本なので、着替えなどが入っている小さなバッグには嵩張る。
本書は、「一九四五年、うちの両親は、犯罪者かもしれない男ふたりの手にゆだねて姿を消した。」から始まる。著者は本書の執筆を始めたときは、この一行しか頭になかったとか。あとは書きながら考える。読者どころか書き手自身をも翻弄するかのように。作家たるものの至福でなくて何だろう。だからといって作家の気紛れに終始するはずがない。徹底的に調査、執筆に三~四年、編集に二年。
二〇一八年、イギリスのブッカー賞設立五〇周年を記念して、歴代の受賞作から最優秀作品を選ぶ企画が行われ、オンダーチェの「イギリス人の患者」が選ばれた所以である。本書も傑作だと断言しておく。
戦時下においてレジスタンスやスパイ活動など死地を潜り抜けてきた(生き延びられなかった)人がどれほどいることだろう。作戦成功に貢献しても表立って誉められることもない(正体がバレたら殺される)。不幸にして亡くなっても、官報に国家に有為な貢献をしたの一行が載るだけ。栄光と悲惨と……沈黙。
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