呆然自失の朝が今日も
夜陰を通り過ぎ行く人影。折々の月光が沈みがちな影をこの世に引き戻すように浮かび上がらせる。しなだれた木立や崩れかけた板塀は懸命に光を遮っている。黒い塊は痕跡を残すことを恐れているのか。
何を恐れることがあろう。抉るつもりで地を蹴っても素知らぬ顔のまま闇の中の異物を滑らせているだけ。傷一つ残すことはできやしないのだ。
お前は光を嫌っているのか。何か疚しいことがあるのか。何処から逃げている。何処へ逃げていく。辿り着く宛てなどないくせに。
凝り固まった蝋、それとも松脂。琥珀か。命の源が封じ込められているとでも? 嘗めたら水飴の味がするとでも?
息が苦しい。息が肺に入っていかない。いや、そもそも空気なんてあるのか。漂っているはずの空気がガラスの粉塵のように凶暴だ。優しかったはずの、遠い日の名残りの空気は、腐ったゴム風船の中に閉じ込められている。空気たちが身を竦めている。縮こまって、今じゃパチンコ玉だ。
生きるためには、あれを呑みこまないとならないのか。本当にゴム風船の中に空気がまだ残っているのか。風船のままに呑み込めって? 喉に詰まるだけじゃないのか。
お前は夜を通り過ぎる。眠りの許されない夜を。濃密すぎてお前の存在する余地のない夜。睡魔が夜へと飛び込めとけしかける。青褪めた狼のような睡魔が追いかけてくる。もう逃げることに疲れたんだ。血糊べっとりの刃に貪られたって構わない。この先、何も望みがないのなら、壁に頭からぶつかるか、崖から転がり落ちるか、狼の牙に食い破られるか、それとも血の池に溺れるかしたほうがいい。
睡魔からは逃げられない。追いつかれては貪り食われて、残るのは肉片と骨の欠片だけ。
目覚めは救いだろうか。赤い闇からの解放だろうか。それとも、もう一つの眩い、透明な闇へと溶解するだけのことじゃないのか。
お前には眠りの夜など無い。焼けたトタン屋根の上の剽軽なダンスを披露し続ける、それを夜と呼べるなら、それはそれで構わない。
夜明けは来るのだろうか。目覚めの時がお前に許されるのだろうか。疲労困憊したお前には、息も絶え絶え意識朦朧、呆然自失の朝が今日も待っている。
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