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2020/03/01

2020年2月の読書メーター

 高村さんの作品「我らが少女A」を初めて読んだのは、懸案を果たした気分。ナボコフの文学講義を再読。さすが。この講義でも扱われている、ディケンズの作品で最後の未読作品「荒涼館」に着手。なかでも、畏敬する思想家ホフスタッターの大作「わたしは不思議の環」に挑戦し読了したことに達成感。
 最後のホフスタッターの書だけで一か月を要した。最初、ゲーデルを扱っていることもあり、難解な書と警戒気味。だが、案ずるより産むが安しで、著者は初学者たる吾輩へも配慮した記述になっていた。

2月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:4603
ナイス数:5346



わたしは不思議の環わたしは不思議の環感想
名著の誉れ高く今も売れ続けている『ゲーデル、エッシャー、バッハ』の続編……というか、やや著者の意図とは違った理解がされがちだったので、真意を改めて伝えようと書いたとか。が、単なる敷衍の書ではなく、書いていくうちに独自のキャラクターが立って、思わぬ内容になったとか。著者は、高度な内容をかみ砕くようにして順を追って説明している。
読了日:02月27日 著者:ダグラス・ホフスタッター


荒涼館(二) (岩波文庫)荒涼館(二) (岩波文庫)感想
いよいよというか、ようやくというか、本巻に至ってストーリーが動き出してきた。現代の作家なら、半分ほどにまとめるかも。冗長? じゃなく、ディケンズ節炸裂。全体の中でこの場面はどう位置付けられるのか見えなくていらいらすることも。が、そもそも人生なんて、先が見えないだけじゃなく、今という今が不透明で不安だったりするもの。ディケンズの技量に任せ、場面ごとの叙述を楽しめばいい。ゴーゴリやゴンチャロフらを彷彿させる(どちかがどちらに影響したというのではない)諧謔味のある滑稽な表現が卓抜。
読了日:02月26日 著者:ディケンズ


荒涼館(一) (岩波文庫)荒涼館(一) (岩波文庫)
読了日:02月22日 著者:ディケンズ

 


青春と変態 (ちくま文庫)青春と変態 (ちくま文庫)感想
会田 誠というと、山口晃と双璧を為す天才アーティスト。特にエロに傾斜している特異な作家。溢れる才能を持て余しているようにも感じる。そうした才能の行き場を時に小説という創作に向ける。本書は若き日の会田の、まさに若書きの作品。女子トイレでの覗き趣味の苦闘ぶりが前半の山場。興味深いのは、現に絶好の場面を垣間見つつも勃起はせず、従って自慰行為にも至らない。何処か観察者たる資質が示されているのか。
読了日:02月19日 著者:会田 誠


ナボコフの文学講義 下 (河出文庫)ナボコフの文学講義 下 (河出文庫)感想
上巻共々これが講義なのかと驚くような面白さ。作品からの引用も多く、その分析の鋭さも併せ一個の小説のように楽しく読めてしまった。

 

 ナボコフの文学論を端的に知りたいなら、上巻の「良き読者と良き作家」や、とりわけ下巻の「文学芸術と常識」を読むがいい。その(吾輩が思うところの)真髄は、以下の言にある。「天才の霊感には三番目の要素が加わる。すなわち過去と現在と、そして未来(自分の書く本)が、一瞬のきらめきのなかに合体する」として:
読了日:02月18日 著者:ウラジーミル ナボコフ


科学する心科学する心感想
池澤氏は、大学は理工学部で物理が専攻だったようだ。科学する心をずっと保ちつつ、作家活動してきた。浅学非才の吾輩だが、知識(文献)的には目新しいものは少ない。本書の内容は、池澤ファン向けというべきもの。車中での待機中に最適の楽しい読み物だった。
読了日:02月16日 著者:池澤 夏樹


カラー版 虫や鳥が見ている世界―紫外線写真が明かす生存戦略 (中公新書)カラー版 虫や鳥が見ている世界―紫外線写真が明かす生存戦略 (中公新書)感想
先月、読んだ実重重実 著『生物に世界はどう見えるか  感覚と意識の階層進化』(新曜社)に続くもの。本書では紫外線に特化している。生物(細胞)には致命的に有害なはずの紫外線を転用して生命体の生存戦略に組み込んでいく、生き物たちの知恵の凄さ。メラニンなどの色素を作りだす驚異。体表を構造的に変化させて独特な光沢を生み出し、生存に活用する戦略の巧みさ。人間は紫外線を避けるしかないが、こうした動植物たちの知恵を活用させていただいている。
読了日:02月14日 著者:浅間 茂


ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)ナボコフの文学講義 上 (河出文庫)感想
上巻では、ジェイン・オースティン『マンスフィールド荘園』、チャールズ・ディケンズ『荒涼館』、ギュスターヴ・フロベール『ボヴァリー夫人』が扱われる。ジェイン・オースティンなどはナボコフの好みの作家ではないのだが、決して辛口にならず丁寧に読み込まれている。ディケンズや更にフロベールともなると、文学とは、偉大な作家の世界では、どんなに取るに足りぬ人物でも、ことのついでに登場してくる人物でさえも、息づく権利をもっていると説く。
読了日:02月12日 著者:ウラジーミル ナボコフ


「他者」の起源 ノーベル賞作家のハーバード連続講演録 (集英社新書)「他者」の起源 ノーベル賞作家のハーバード連続講演録 (集英社新書)感想
人種差別の問題は白人作家も扱ってきたが、その中には巧妙に、あるいは築かないままに隠蔽された差別の構造があり、欺瞞がある……といった論考なら、いろんな学者がもっと鋭く分析して示しているかもしれない。同じ黒人でも生粋の黒人か、白人の血の混じった黒人か。ブラック・イズ・ビューティフルという表現はあり得る(あった)が、ホワイト・イズ・ビューティフルはない。それはなぜなのか、などなど。トニ・モリスンの本書は、作家ならではの視点もだが、文学作品という形でないと表し得ないと指摘している点に特色がある。
読了日:02月10日 著者:トニ・モリスン


東京日記 他六篇 (岩波文庫)東京日記 他六篇 (岩波文庫)感想
「東京日記」などいずれも傑作とされているようだが、「柳検校の小閑」が特にお気に入りだった。読んでいて、創作とは思わず、あれ、内田百閒って、盲目だったっけと慌てて確認したほど。目の不自由な人の、音や気配に敏感な生活ぶりが生々しく感じられた。「日常の中に突如ひらける怪異な世界を描いて余人の追随を許さない」百間文学の粋を表している作品ではなかろうか。
読了日:02月08日 著者:内田 百けん


我らが少女A我らが少女A感想
なかなかの読書体験。さすがに高村氏だけあって、犯罪モノだが、ありがちな刑事ドラマ、犯人を捕まえました。犯罪者やその周囲にいろいろ事情があっても、殺人はいけません、と説諭して終わりというような安直な物語のはずがない。
 と言いつつ、吾輩は高村作品に接するのは初めて。どうやら本作に登場する合田氏は高村作品に馴染む読者には旧知の人物らしい。だから、刑事(上がりである合田の動向や胸中をも折々挟まれている。が、物語の比重の上では、狂言回し的な人物も含め、あくまで十人余りの主要人物たちと同等に近い扱いである。
読了日:02月07日 著者:髙村 薫


成城だより-付・作家の日記 (中公文庫)成城だより-付・作家の日記 (中公文庫)感想
付録の作家の日記は作家が意気軒高だったころのもの。
 大岡昇平がこんなにゴルフ好きだったとは意外だ。まだ若い時代の話だが。これだけ本や文献資料漁り、執筆しながらも、文壇(懐かしい言葉。今もあるのかな)仲間とは、ゴルフコンペでの交流が盛ん。出版社に作品提供を依頼され、創作に集中しなきゃと思いつつ、ゴルフに興じてしまう自分を忸怩たる思いで反省する…も。あるいは作家としての行き詰まりを内心感じていたのか。
読了日:02月02日 著者:大岡 昇平

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