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2020/02/01

2020年1月の読書メーター

 なんと言っても、フォークナーの「アブサロム、アブサロム!」と、発見だった初読みのジュリアン・グラックの作品「シルトの岸辺」かな。 我輩としては読んだほうかも。
 実重重実著の「生物に世界はどう見えるかー感覚と意識の階層進化」は、平易な内容なのに、読むほどに生命(生き物)の不思議に瞑想に誘われる。意識の原形としての感覚は、単細胞(バクテリア)の細胞膜の外と内との識別にあるのかな。

1月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:5025
ナイス数:5894


三体三体感想
鳴り物入りの作品ということで、否が応でも期待値が高まった。それだけに、やや拍子抜け。アイデアもスケール感も圧倒的なのだろうが、結末まで読んできて、物語は、え? ここで終わるの? という感があった。尤も、それも当然で、本作は三部作の第一部であり、物語はいよいよここから本格的に飛躍展開するらしい。
 
読了日:01月29日 著者:劉 慈欣
流れ――自然が創り出す美しいパターン2 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)流れ――自然が創り出す美しいパターン2 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)感想
「川の流れ、大気の流れ、砂の流れ、そして人や動物の流れ。」クラドニ図形や群れなす鳥や魚たちの見事なまでに整った集団行動、駅やコンサート、あるいは宗教的儀式に殺到する人々の動き。ゴッホの「星月夜」の画面に観られる謎の渦の正体は。あるいはダ・ヴィンチが生涯追い求めた川の流れや渦巻と女性のカールする長い髪の為す渦の形、葛飾北斎の描く逆巻く潮。流れのそこに潜む数学的物理学的パターンの法則、あるいは科学者の探求の手をすり抜ける自然の奥深さ。ただただ楽しむ読書だった。
読了日:01月28日 著者:フィリップ・ボール


現代語訳 藤氏家伝 (ちくま学芸文庫)現代語訳 藤氏家伝 (ちくま学芸文庫)感想
藤原氏初期の歴史が記された伝記。藤原鎌足と定恵と藤原史(藤原不比等)の伝記(著・編者は恵美押勝(藤原仲麻呂))。及び藤原武智麻呂の伝記を記したもの(著・編者は僧延慶)。何と言っても日本の古代の基本を作った藤原氏。『日本書紀』も、実質、藤原氏が作った。予想していたように、自画自賛で歯が浮くような美辞麗句の連続。一度は読んでおきたかった。それにしても、中臣氏は何処から来たのか。

読了日:01月27日 著者:


狂気の科学者たち (新潮文庫)狂気の科学者たち (新潮文庫)感想
内容は、まさに真実を知りたい、あるいはひたすら好奇心で、それとも社会に貢献したい、有名になりたい…と、動機は様々だが、尊敬するしかない科学者や血も涙もない科学者など、やはり知的に飛びぬけた人は、やることも吾輩のような凡人の常識を超えるなという感が強かった。研究者らの実態の歴史をゆったり楽しむ本(時に、そのえげつなさにゾットすることもあるかも)。
読了日:01月25日 著者:アレックス・バーザ


シルトの岸辺 (岩波文庫)シルトの岸辺 (岩波文庫)感想
ブッツァーティ作の『タタール人の砂漠』 (岩波文庫)のカフカ的不条理を彷彿させるが、あのいい意味での素っ気なさを詩情溢れる情景描写や心理描写で、人の手にはどうしようもない運命の潮流に流され、避けがたい破局へ向かっていく様を丁寧に描いている。それなりに小説を読んできた吾輩だが、この味わいは初めて。年初からこんな作品に出合えて幸せである。知る人は知っているのだろうが、我輩には全く未知の作家で、まさに発見と言える。自分の真贋を観る目を褒めたくなる。
読了日:01月23日 著者:ジュリアン・グラック


土に贖う土に贖う感想
創作なのだろうが、北海道の開拓の歴史を巡る文献を元に創作したとも云えそう。「土に贖う」は、恐らくバブルが弾け銀行が破綻した歴史、最後の「温む骨」などにはインスタグラムが登場するくらいで、時代を追っての創作なのか。本書の末尾に参考文献が示されているが、歴史の事実を元に、歴史には現れ得ない、市井の消えゆくしかない、文学でなければ拾えない物語を編んだのだろうか。
読了日:01月21日 著者:河崎 秋子


生物に世界はどう見えるかー感覚と意識の階層進化生物に世界はどう見えるかー感覚と意識の階層進化感想
何が大事って、「意識に関するケンブリッジ宣言(The Cambridge Declaration on Consciousnes)」が2012年に出されていること。生きたタコを茹でるなんて、とんでもない!
読了日:01月19日 著者:実重重実


子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)感想
犯人チカチーロの両親は、ウクライナ共和国の人。チカチーロが生れた1936年、スターリンによる大量殺人的農業政策が強行され、数百万人が殺された。飢饉になり食糧も収奪され、餓死多数。餓死者が隣人に喰われることも稀れではなかった。チカチーロの兄もその一人とか。
 チカチーロは、生まれながらの肉体的障害などで、母親からは攻めさいなまれ、家族からも疎まれ、学校に友達が出来ず、性的欠陥ゆえ女性に嗤われ、戦争での血塗れの悲惨な負傷者を目の当たりにし……。
読了日:01月16日 著者:ロバート・カレン


爆発する歯、鼻から尿―奇妙でぞっとする医療の実話集爆発する歯、鼻から尿―奇妙でぞっとする医療の実話集感想
解説には、「現代からすれば目を疑うような不可思議な症例、風変り&あやしげな治療法、奇跡の生還、乱暴きわまりない手術などなど、17~19世紀の医学文献から「発掘」された、すべて実話、選りすぐりの61エピソード」とある。書き手は、BBCのプロデューサーを務め、フリージャーナリストに。症例は現代だってありえるだろう。治療法は隔世の感があるだろうが。ひたすら好奇心で楽しむ本。
読了日:01月14日 著者:トマス モリス


アブサロム、アブサロム!(下) (岩波文庫)アブサロム、アブサロム!(下) (岩波文庫)感想
自分にはなじみ辛い、展開も理解の困難な物語だった。物語と書いたが、ある意味、玉ネギの皮を一枚一枚剝いていくような、もどかしい展開。語り手が誰なのか、しばしば見失う。本書には、訳者の手により、登場人物の紹介や、家系図、地図、各章のあらましなどが付されている。何十回、これらの解説に頼ったことか。時代はアメリカの南北戦争を挟む。人種問題(主に黒人と白人の相克、つまりは血脈を巡っての諍いが話のメインであることは容易に想像が付く。が、フォークナーの手法は一筋縄で行かない。 →
読了日:01月13日 著者:フォークナー


宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか (ブルーバックス)宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか (ブルーバックス)感想
8割がたは量子力学の草創の物語。知っていた話も多かったけど、さすがに詳しい。物語風で数式も一切使わないし、有名な人物が多いこともあって親しみやすい。最後のほうは、隠れた変数やベルの不等式に絡む話。やや親しみ辛いけど →
読了日:01月08日 著者:ルイーザ・ギルダー


風景の石 パエジナ (不思議で奇麗な石の本)風景の石 パエジナ (不思議で奇麗な石の本)感想
読了したというより、昨夜は本書の数々の写真に魅了された一晩だった。読み始めていたフォークナーの本を脇に置き、ただただまさに不思議な石の世界に浸る。パエジナストーン、別名、廃墟大理石とも。「樹木や山岳などの風景や廃墟をイメージさせる模様を持つ大理石である。主にイタリア、フィレンツェ近郊に産出したことから、総称してフィレンツェ石とも呼ばれる」とか。(画像及び説明は、「廃墟大理石 - Wikipedia」より)ぜひ、パエジナストーンで検索してほしい。
読了日:01月06日 著者:山田 英春


アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)感想
あまりに独得の表現手法に、少しは小説好きな吾輩も内容はともかく、登場人物の相関関係や語り手の把握に苦労した。世界に慣れたのは、上巻の半ばを過ぎてからか。念のために言い添えておくと、本書には訳者による丁寧な解説や人物紹介その他が施されている。それらを利用すれば吾輩が覚えた苦労も半減していたはずである。マルケスが影響を受けたのも納得。日本では中上健次の世界と通底するものを感じた。
読了日:01月05日 著者:フォークナー


蛸 ―想像の世界を支配する論理をさぐる―蛸 ―想像の世界を支配する論理をさぐる―感想
科学に限らず学問の専門化細分化が進んだ今日だが、ロジェ・カイヨワの生前(1913年 - 1978年)にあってもその負の側面は顕著になってきていた。
 カイヨワは、そうした趨勢に抗った思想家の一人。総合的な知、学際的な知を目指す。志は立派である。かくあるべしと思う。しかし、現実には一つの専門分野を極めるのも至難のこと。吾輩の畏敬する哲学者であるダニエル・C・デネットも学際的な試みを行っている。可能な限りの科学を網羅乃至把握し、その中で人間の生きる価値を探る。デネットの諸著を読んで孤高を行く困難を感じる。
読了日:01月05日 著者:ロジェ・カイヨワ

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