絵本を楽しむ心がない
← 伊坂幸太郎/著『重力ピエロ』(新潮文庫)「兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる」
伊坂幸太郎作の『重力ピエロ』を読了。「仙台ぐらし」 (集英社文庫)以来。つまり、小説は初めて。仙台在住。仙台に6年、居住していたこともあり、妙に親近感を抱いてしまった。この小説でも、青葉城が登場したり、往時を偲んでしまう。
この小説では、家族に……母に悲しい過去がある。レイプ魔に犯され、身ごもり、産む決断をする。それが弟の春である。なんとも皮肉な名前。兄は泉水(いずみ、つまりスプリング)。弟は春(スプリング)。つまりスプリング兄弟。飄々と生きてきたようで、父もだが、(小説の中では語られないが)気丈な母も内心は苦しんできたはず。母が早死にしたのは、悲しい過去に関係はないのか。小説の設定だといえ、こういうレイプ魔の子という十字架は、とてつもなく重いもの。父母は兄同様愛したとはいえ。しかも、世間はそういう家族の事情を知っている。兄弟の学校仲間だって知っている。前向きに生きるのは至難だろう。肝心のレイプ魔は数年の刑期の後は野放し。いつ出会うか分からない。作者はそういう弟の気持ちを懸命に表現しようとしているのは分かる。だからこその行動なのだと正当化しようとしている。いいのか。救いなどあり得るのか。結末に完全には納得できなかった。
絵本を愛する心がない:
絵本や童話は苦手なのか、まず手が出ない。子供の頃、絵本に限らず、本が好きじゃなかった。読んだ記憶はないわけじゃないが、感動したとか夢中になる……なんてことはなかった。小学4年か5年頃、クリスマスプレゼントに、立派な装幀の「アンデルセン童話集」が。内心、なんてものを呉れるんだ、よりによって本かよ、童話かよって、嬉しがる表情を作って見せるのに苦労した思い出がある。
自分でもかなり強張った<笑顔> だと、冷や汗ものだった。恐らく、あまりどころか全く本を読まない我輩への叱咤激励の意味があったのかもしれない。我が子よ、せめてこれくらいは読んでくれ……。内心、俺は知恵遅れと両親に思われているのかと、がっかりする思いさえあった。確かに親に限らず、誰ともあまり喋らなかった。言語障害が(も)あったんだもの、喋る気になれるはずもない。読むのは年齢相応の漫画雑誌のみ。あとは、テレビ(漫画)を見るだけ。親ならずとも、みんなに付いていけるのかと、心配になろうというもの。
叱咤激励(?)は他にも。我が子よ尼寺へ行け! ではないが、算盤塾へ通わされた。四年生になろうという冬だった。気が小さい我輩、学校では何十人という多数の生徒に安心して埋没できだが、十人あまりの塾生の教室にあっては、さすがに埋没もできず、懸命に算盤を習った。十人あまりの中で埋没するには、そこそこに頑張って、塾の中で平均的な成績を修めるのが早道と心得たようだ。要は我輩なりの処世術である。目立ちたくない……これが我輩の生きる道。ところで、今こんなふうに書いていて、ふと思い出したことがある。
尼寺へ……もとい塾へ遣らされたと書いたが、もしかしたら、自分が志願……希望したのかもしれない。雪深いある日の夕方、姉が何処かへ出掛けるのを目撃した。私は姉のあとを追って、「何処行くが?」と。姉は、「(算盤)塾」とひと言。我輩は、それがどんな世界かも分からないまま、とにかく気になって、親にせがんだ……のかもしれない。この内気で姉とだって滅多に喋らない人間が意思表示らしきものを示した、あるいは初めての機会だったのかも知れない。
なんとか4級になり、そろそろ3級の試験に挑戦か、というある夏の日、街道で交通死亡事故があったと聞いて、塾に行く時間が迫っているのに、現場へ慌てて駆け付けた。そこにはまだ血溜りがべっとりと。赤黒い直径30センチほどの血の池。その生々しさは衝撃的だった。
目が心が奪われたからか、あるいはむしろ既に嫌気が差していたからか(姉の通う世界の正体は知り尽くしたし)、その日、塾はさぼり、行くのを止めた。
父母から咎められた記憶はない。おそらく曲がりなりにも算盤塾に通ったことで、それまでは、成績が、クラスの中で下から数えた方が早かったのが、上位とは行かなくとも、少なくとも算数では目立つようになっていたからかもしれない。
が、漫画の本以外は読まないガキであるのは、全く変わらなかった。毎日のように、貸本屋さんに通い、少年マガジンかサンデーかキングを借りてきては、繰り返し飽きるほどに読んだ……漫画雑誌だから眺めたなのか。ま、多少は活字が混じっている! だが、童話も絵本も、まして活字の多い本なんて見向きもしなかった。
幼い頃にしても、手術現場での萎縮する心、長い治癒期間、保育所のみんなに置いてきぼりされる孤独感に沈みきっていた。自分にとって世界とは、顔が心が切り刻まれる、想像も空想も、凡そファンタジーの付け入る余地の全くない、殺伐たる無味乾燥なる世界だった。私は真っ赤な闇の中で言葉を失って、自分が孤独だとすら感じていなかった。手術台の上で、身も心も剥き出しにされて、自分を守るには、想像も空想もしない、ひたすら己れを殺して、今という時の過ぎるのを待ち続けるしかなかった。
絵本だって? 童話だって? そんなものなんの役に立つ! 絵空事など手術台の上で通用するはずもない! 漫画に何を求めていたのだろう。面白さ? 面白いって、どういうこと? どんな本にしろ、自分が本に求めるのは、恐らくは他人とは違っていたようだ。
とは言っても、他人が子供の頃に絵本や童話に何を求めているか、私は分からない。私の場合は
指が疲れたので、中断。
先は遥か遠い。社会人になっても、本を読むのは後ろめたい(別に後ろめたい本ばかり読んでたわけじゃない)気持ちは続いていた。なので、遥かな道。でも、それなりに読むようになったのは中学生になってからか。
「眼前の現実や人間関係周囲への馴染は かなり悪いタチ」ってのが気になりますが、子供の頃のありようは似て非なるものでしょうね。「赤毛のアン」は、読んだことがないかな。空想であれ、本にその手段を求めるという発想はなかったなー。漫画の本で、頭を空っぽにさせるほうが、空っぽの頭には合っていたみたい。考えなくて済むし、感じなくて済む。これも現実逃避だね。本は、子供の頃は縁遠いもんだったし、年齢を経るにつれ、読書は段々後ろめたい行為と自覚してきた。現実に直面しないといけないって、本に逃げ道を求めちゃいけないって。
文学少女・少年たちとは少なくとも自分は違う。中学生になって本を読み始めましたが、何処か見栄か今のままじゃやばいって思いが強かったような。そうなんです。文学(小説)も読むようになったけど、高校から大学までは哲学が中心。哲学書も本ですけど、小説とは違う。文学に開眼したのは高一の時の「ジェイン・エア」で、ある意味、叙述のある瞬間、形而上学的相貌を帯びていると感じたからのようです。ドストエフスキーやト ルストイ、リルケ、マンも、そういった瞬間が見いだせる。文学からすると、邪道かなって。
絵本や童話って、勝手に並べてますが、同列でも同類でもないですよね。雑な自分。雑ついでに(?)、ファンタジー系もダメみたい。世界的ヒット作のあれも全く手が出ない。想像力や空想力が乏しいのかな。河合隼雄氏は、ユングの関連であれこれ読みました。神田の古書店街ですれ違ったっけ。
絵本なのかな、日本昔ばなしってのは、さすがに印象に残っている。昔ばなしは、えぐい。絵本って大概、美談というか、最後は人間の善意に頼る。性善説。昔ばなしって残酷だったりするけど、人間とはと考えさせるところがある。グリム童話も好き。ディズニーアニメは嫌い。
指環、エンデ、それぞれ好悪があるんですね。ヨシタケシンスケ、気になります。絵本については、我輩は読まず敬遠なのかな。あ、思えば(話が飛ぶけど)詩も苦手。絵本と詩は別物とは思うけど、我輩の中では何か同じような感受性の硬さか想像力の鈍さが、その世界への親和を阻んでいるような。
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