詩人ゆえの小説なのか
← マイケル・オンダーチェ (著)『イギリス人の患者』 (土屋 政雄 (翻訳) 現代世界の文学 新潮社) 「舞台は第二次大戦下のイタリアの僧院。北アフリカの砂漠に不時着したパイロットが収容され、手当を受けている。「イギリス人の患者」としか身元を明かさない彼は、全身に火傷を負い、容貌も不明、記憶も喪失している。だが、瀕死の患者が若い看護婦に語り紡ぐ言葉は、この上なく深くミステリアスな愛の世界だ」
マイケル・オンダーチェ 作の『イギリス人の患者』を読了した。世評が高く、古本でようやく入手。読み始めの数頁でこれは読めると実感。物語の概要は上記の通り。作者は詩人だという。どんな詩を書くのか知らないが、戦時下での多くは若者たちの切迫した様子の描写が息を呑むほど見事。スパイだったり、地雷を無力化することにひたすら全神経を傾注する工兵の鬼気迫る工作作業。正体不明の瀕死の患者を話の焦点に置くことで、彼の周辺の人物たちが普通なら表にしない感情や本音を晒してしまう。詩人である作家は、人物描写も情景描写も日常の中に潜むモノやコトの生々しさを喚起する技法を駆使して現出させていく。薄皮一枚剥いだら、そこには明日をも知れぬ命、血肉が滾っている……そのことを思い知らせてくれる。そういった詩人だからこその作品なのである。
老眼エレジー: 過日のこと、スーパーでオレンジやトマトを買おうとしたら、近くにパック入りのパイナップルが。ひと口サイズにカットされている。このところハードな庭仕事が続いているし、たまにはプチ贅沢を。自宅で早速食べるところだが、まてまて、もう少し冷やしてからだ。じっと我慢。
さていろいろあって、ふと冷蔵庫を開けたら、パック入りの黄色いが、パイナップルだ! いそいそと茶の間のネーブルへ。ちっちゃなフォークもね。パックを開けて、早速、口に運んだ。ん? 何か食感も味も違う! あまりに久しぶりにパイナップルなんて食べたから我輩が食感も風味も忘れ去って、戸惑っただけなのか。眼下のパックの中身をじっと観察した。見ると、種らしきものが。パイナップルに種なんてあったっけ? さらにじっと眺めた。スイカだ。紛れもなくスイカだ。別にスイカだって嫌いなわけじゃない。が、我輩はパイナップルを食べたくて買ってきたのだ。それにしても、何度となくパックを眺めたはずではないか。それが、フォークで刺して口に運ぶまでパイナップルじゃなく、スイカだと気が付かないなんて。老眼の弊も極まれりだ。あんまりだ。……思えば、この数年、好きだった美術館通いをしなくなったのも、庭の花や木々の緑に昔ほど鮮烈な感動を覚えなくなったのも、老眼のせいなのかもしれない。
気付く人は気付くだろう。我輩は、この短文を読み返して気付いた。自分のことなのに。それは、老眼でパック入りのパイナップルじゃなくスイカだと、ひと口噛んでようやく気付いたという点。たぶん、多少は老眼でも、普通の人なら、パックを開けた瞬間、あれっと感づくはずなのだ。それは、パイナップル特有のややきつめの甘みじゃなく、ほんわりしたスイカの甘みが漂ってきていたはずだから。その時点で変だと分かるはず。が、我輩は全く気付かず、口にして初めて、なのだ。嗅覚が鈍感なのである。
← 山口 誓子 (著) 『俳句の心』 (毎日新聞社 (1975)日本の心シリーズ)
多分、父の蔵書。1975年刊。書庫で発見。父は現役時代、俳句に傾倒していた。俳句の同人誌も購読。書庫には、日本俳句全集を筆頭に俳句関連の書籍の数々。何かの同人だったのだろう、同人らの自費出版の本(箱入り!)が10冊以上も。父もいつかは出したかったのかな。山口誓子の名は知っていても、本は読んだことがない……と思う。俳句に関心がないわけじゃない。せっかくだから読んでみる。俳句とはこの上なく凝縮された詩であるというのは、俳句理解として正しいのだろうか。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 柴ストーブを脇目に数学エッセイを堪能する(2024.12.10)
- 俳優の中山美穂さん死亡(2024.12.09)
- しらすとちりめんじゃこの違い(2024.12.06)
- ハン・ガン著『菜食主義者』を読んだ(2024.12.05)
- 「日本航空123便墜落事故」(事件)の真相解明を!(2024.12.02)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 柴ストーブを脇目に数学エッセイを堪能する(2024.12.10)
- 俳優の中山美穂さん死亡(2024.12.09)
- しらすとちりめんじゃこの違い(2024.12.06)
- ハン・ガン著『菜食主義者』を読んだ(2024.12.05)
- 「日本航空123便墜落事故」(事件)の真相解明を!(2024.12.02)
「書評エッセイ」カテゴリの記事
- 柴ストーブを脇目に数学エッセイを堪能する(2024.12.10)
- しらすとちりめんじゃこの違い(2024.12.06)
- ハン・ガン著『菜食主義者』を読んだ(2024.12.05)
- 「日本航空123便墜落事故」(事件)の真相解明を!(2024.12.02)
- 立山に 降り置ける雪を 常夏に…疑問(2024.12.01)
「恋愛・心と体」カテゴリの記事
- 柴ストーブを脇目に数学エッセイを堪能する(2024.12.10)
- 俳優の中山美穂さん死亡(2024.12.09)
- しらすとちりめんじゃこの違い(2024.12.06)
- ハン・ガン著『菜食主義者』を読んだ(2024.12.05)
- 「日本航空123便墜落事故」(事件)の真相解明を!(2024.12.02)
「写真日記」カテゴリの記事
- 柴ストーブを脇目に数学エッセイを堪能する(2024.12.10)
- 俳優の中山美穂さん死亡(2024.12.09)
- しらすとちりめんじゃこの違い(2024.12.06)
- ハン・ガン著『菜食主義者』を読んだ(2024.12.05)
- 「日本航空123便墜落事故」(事件)の真相解明を!(2024.12.02)
コメント