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2019/07/20

イタイイタイ病の被害地域が限定されるのは

181256_20190720210401 ← ヴァージニア・ウルフほか 著『新装版 レズビアン短編小説集 女たちの時間』(利根川 真紀 編訳 平凡社ライブラリー ) 「幼なじみ、旅先での出会い、姉と妹、ためらいと勇気。見えにくいが確実に紡がれてきた「ありのままの」彼女たちの物語」。

新装版 レズビアン短編小説集 女たちの時間』を読了した。

 ホール作の『孤独の井戸』は、1928年のイギリスでのもの。初めて性愛を含むレズビアニズムを正面切って扱った。非難囂々。猥褻裁判に。同時期のウルフの「オーランドー」がややファンタジーの要素を強調したのとは異なる、「レズビアン短編小説集」の解説の中で利根川真紀さんが。
 他にもいろんな女性作家や作品が紹介されている。

 本書の表題のレズビアンに惹かれて手にした。やや好奇心で。が、本書においてレズビアンとは、従前の文学においては無視か視野に入らなかった、女性同士の交流を文学のテーマの俎上に載せた、そんな初期の作品群を紹介している。過日の直木賞候補が全員女性だったのは耳に新しい。現代ではそれほど珍しくはなくなったテーマだが、先駆者らは偏見との闘いで、筆名を男性にしたり曖昧にしたり。19世紀のジョージ・エリオットが有名だが、20世紀の半ばに至るも事情は大して変わっていない。こうした作品群を示されて新鮮だったんだろうし、勇気づけられただろう。

9784065163870_w  ← アイザック・ニュートン著『プリンシピア 自然哲学の数学的原理 第1編 物体の運動』(中野 猿人訳 講談社ブルーバックス) 「アイザック・ニュートンの代表作『プリンシピア 自然哲学の数学的原理』の全訳を復刊。出版当時から難解と言われた原典を、現代の科学者が「内容そのものの解明理解を目的」として翻訳。巻末注には、微積分の定理を使った別証明、原典では省略された証明の内容、現在の視点から見た物理的概念の解説がまとめられている」。

 過日、期日前投票のあと書店に立ち寄った。物色して歩いていて本書を発見。ニュートンはアインシュタイン、ガロアらと並んで中学の頃からのヒーロー。伝記の類いはもちろん、力学あるいは物理学(史)の本は数知れず読んできた。高校三年の夏、進路に迷った挙げ句、哲学科を志望した。数学か物理学を学びたいという未練は断ち切れず、文学部に在籍しつつも、選択科目に物理学の講義を。が、ニュートンをヒーロー視しつつも、ニュートンの主著を読んでいないという負い目の念は消えない。いつかは読みたいと思いつつ、敷居の高さに躊躇ってきた。多分、本文の大半は高校2年か3年程度の水準だろう。昨年は与謝野晶子版の源氏物語を読んだことだし(どういう流れだ?)、そろそろ踏み切ろうかな。
 表題が、「プリンシピア」になっているのが、気になる。近年はそう表記するようになっている? 我輩は、正しくはないのかもしれないが、「プリンキピア」と表記したい。

61o3g2ovrcl-2_20190720211601 ← 新田 次郎 (著) 『桜島』 (中公文庫)  「桜島」「神通川」「北方領土」を含む。父の蔵書。

 昨日は、一昨日の「桜島」に続き、「神通川」を読んだ。本作が書かれた頃は、市町村合併のずっと前で、婦中町は富山市とは隣り合っているけど、別の町。本作は、イタイイタイ病を扱っている。解説はまだ読んでいないが、恐らくはあの医師がモデルなのだろう。神岡鉱山から垂れ流された排水に起因する、カドミウムによるあまりに悲惨な公害。当初は原因不明の風土病乃至奇病扱いだった。その程度の認識すら、婦中町の町医者の孤独で(当時としては)無謀な告発で世間に知られた。
 我輩がこの病の存在を初めて知ったのも、少年マガジンの、日本各地の奇病特集で。当時の漫画雑誌は社会性があったのだ。我輩が中学生になった頃には、原因物質も特定され(水が原因ではないかと、強く疑われるも、当時の大概の医学部の技術では、当地の水は分析の結果、飲んでも構わないと! 化学の専門家の分析でやっと、カドミウムが検出)、かの町医者も孤独な闘いから、国内外の研究者やマスコミからの後押しも受けるように。
 当初はかの医師の告発は売名行為と非難され、個人病院への患者が激減した。そこには、富山の狭苦しい風土や気質もあった。さて、本作を読んで、今更ながらの疑問が解けた。それは、神岡鉱山からの汚染水の垂れ流しが原因なら、何故、神岡からかなり離れた婦中町の、しかも特定の地域に被害者が集中したのか。さらに、被害者がある年代以上の(妊娠出産の経験のある)女性に限られるのか。神岡から下流の、もっと広い地域に犠牲者が出なきゃおかしいではないか……。そのメカニズムも含め、今になって氷解した。
 いやはや、一昨年、「富山県立イタイイタイ病資料館」を見学して回ったというのに、何を見ていたのやら。本作では、かの医師の奥さんも重要な役割を担っている。実はなのか、小説上の工夫なのか分からない。解説を読めば分かるのかな。車中で読んでいて、ネタバレになるので詳しくは書かないが、不覚にも涙してしまった。

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